

どんな誤用がある?どうして誤用が起こるの?
概要
「田中先生はきれい先生です。」
「私の足は弟に踏まれました。」
幾度となく学習者から聞いた言葉です。
では、日本語母語話者であれば絶対にしないような誤用はなぜ生まれるのでしょうか?
今回は日本語教師にとって避けては通れない学習者の誤用についてお伝えいたします。
そもそも誤用とは?
誤用と一口に言っても、例えば「私は日本語を書きています。」というような日本語教師でなくても一目で分かる誤用から、「その文単体では間違いではないけれど、文脈から言えば間違っているかな?」というような判断に困る誤用に触れたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
定義については難しいところですが、近代言語語学において、ネイティブ・スピーカー(その言語を第一言語とする者)の発言はすべて正しいという建前から出発しています。
私の日本語が全て正しいのかと問われると答えに窮するのですが、日本語を第一言語とする者がおかしいと思えば、それは誤用ということになるようです。
誤用の種類
そうは言っても、誤用には様々な種類があり、教師によっては意見が割れるものもあります。
では誤用にはどのような種類があるのでしょうか。
1) 発音の誤り
hondoni⇒ほんとうに
shichureishimasu⇒しつれいします
2) 表記の誤り
どいたしまして⇒どういたしまして
キヤべシ⇒キャベツ
3) 語彙の誤り
ラーメンを命令しました。⇒ラーメンを注文しました。
4) 文法の誤り
そのことをわかります。⇒そのことがわかります。
この部屋はきれくありません。⇒この部屋はきれいじゃありません。
5) 表現の誤り
50円だけあるのでバスに乗れません。⇒50円しかないのでバスに乗れません。
前件(50円だけあるので、)後件(バスに乗れません。) に分けると誤りはありませんが、このように全体としてみると誤用となるケースもあります。
上記例に加えて、文脈や状況によって正しいと感じたり、誤用と感じたりする場合があるかもしれません。
文法の誤用の種類
4)文法の誤りについては、さらに分類することができます。
4-1)脱落
当該項目を使用しなければならないのに、使用していない誤用。
その項目がないと非文法的になる場合と、非文法的ではないけれども適切でないという場合があります。
例
「先生、頭が痛いので、午後のクラスを(休んで⇒休ませて)いただきたいんですが…。」
A:「何時ごろ、終わりますか。」
B:「もうすぐ(帰り⇒帰れ)そうですから、待ってください。」
4-2)付加
脱落とは逆に、使用してはいけないところに使用している誤用。
例
日本語が少し(分かれる⇒分かる)ようになりました。
兄弟は8人(が⇒×)います。
4-3)誤形成
活用・接続の仕方などの形態的な誤り。
例
私は兄に(起きられ⇒起こされ)ました。
木村先生の奥さんはリサさんにセーターを(あけました⇒あげました)。
試合がもうすぐ(×⇒な)ので、準備しておきましょう。
4-4)混同
助詞(は/が)、ムード(ている/てある)、自他など他の項目との混乱による誤り。
例
天気予報によると、あした雨が降る(だろう⇒ようだ)。
先生に叱られたのは、宿題をちゃんとやらなかった(わけだ⇒からだ)。
私(は⇒が)手紙を書いているとき、友達が来ました。
4-5)位置
その項目の文中での位置がおかしい誤用や語順による誤り。
例
きのう1週間分の食料を買い込むのに、(2台の車も⇒車を2台も)使いました。
このりんごは(おいしくて、赤い⇒赤くて、おいしい)です。
誤用の原因
では、誤用に至るまでの原因にはどのようなものがあるでしょうか。
いくつか考え得るものを挙げてみます。
a) 母語の干渉
b) 以前に習った他の言語の干渉
c) それまでに習った日本語の事項の影響
d) 教師の説明不足
e) 理解不足
f) 類推の外れ
g) 考えすぎ
例えば中国語で所有などを表す「的」による誤用で「おもしろいの本」となったり、英語では「割れる」も「壊れる」も「break」を使うことから、絵カードを見せると「お皿が壊れます。」と答えたりするのも、a)母語の干渉によるものだと言えるでしょう。
よくある誤用と指導における留意点
上記のように母語の干渉が誤用の原因だと考えがちですが、意外と他の要因も多くあります。
以下の例をご覧ください。
ケース1「田中先生はきれい先生です。」
冒頭にも挙げた、な形容詞導入後の誤用で、種類でいうと4-3)誤形成による間違いです。
きれいは日本語文法でいうと形容動詞ですが、語尾に「い」があるため、学習者が混同しやすい語の一つです。誤用の原因を考えてみると、い形容詞を事前に習得したがための、c)それまでに習った日本語の事項の影響であると言えるでしょう。
誤用を防ぐために、例えば導入時に視覚的に分かりやすいように大きく「い」「な」と板書をして、学習者みんなで分類してみたり、な形容詞導入時に先回りして、誤用の多い「きれい」「ゆうめい」を取り上げて、「きれいな」「ゆうめいな」を繰り返しリピートさせたりすると良いかもしれません。
その際に気を付けなければならない点として、学習者の母語ではどのように形容詞を分類しているかということがあります。
例えば英語、フランス語、中国語には、い形容詞/な形容詞という分類はありません。またベトナム語には、分類がないばかりか、形容詞や動詞などに活用すらありません。
日本語を基準とすると当たり前のように「い」と「な」で分けて指導をしてしまいますが、そもそも形容詞を分類すること自体が難しいことだというのを念頭に置いて指導することが必要でしょう。
ケース2「私の足は弟に踏まれました。」
こちらは多くの学習者を悩ませている受身の誤用ですね。
ではこの誤用はどのようにして生まれたのでしょうか。
受身を指導された方や、養成講座ですでに習った方はご存じだと思いますが、受身にはいくつかの種類があり、初級では以下の受身を扱うことが多いと思います。
1)直接受身 AはBにV(ら)れます。 例:私は母に褒められます。
2)間接受身 (Aは)BにV(ら)れます。 例:(私は)雨に降られました。
3)持ち主の受身(迷惑受身) A1はBにA2をV(ら)れます。 例:私はカラスにパンを取られました。
※A2はA1の所有物または体の部分
「私の足は弟に踏まれました」は、体の部分の所有主が主語になる3)持ち主の受身を使った文ですが、体の部分や物を主語にして受身にすると違和感があります。
この誤用の場合、「弟は私の足を踏みました。」を直接受身の形で受身文にしてしまったのではないかと推測されます。
3)持ち主の受身にある語順であれば、「私は弟に足を踏まれました。」のように違和感がなくなりますね。
誤用の種類でいうと4-5)位置、原因はケース1と同じく、c)それまでに習った日本語の事項の影響であると言えそうです。
初級の学習者に受身の違いを説明するのは難しいですが、所有物や物そのものが主語にならないという点を事前に教えることが大切です。
また、ある程度基本文型を入れたら、応用練習として「不運だった一日」という設定で、学習者に作文を作ってもらい、あえて間接受身と持ち主の受身の誤用を引き出し、語順の違いを説明しても良いかもしれません。
そして、言語によって受身の有無や、区別の仕方はそれぞれだということを指導前に念頭に置いておくと良いでしょう。
例えば、英語では他動詞から受身を作るため、直接受身が使われます。
スペイン語では通常、受身文は使われず能動文で表しますが、ベトナム語では、被害と利益で受身を区別し、迷惑の意味となる「bị」や恩恵を意味する「được」を動詞の前に置くことで受身文を作るようです。
学習者によく見られる誤用にc)それまでに習った日本語の事項の影響があることからして、教師が既習文型と混同させないよう指導に留意したほうがよさそうです。
まとめ
今回は誤用の分類や原因について、例を挙げてご紹介しました。
日本語教師になると多数の誤用と向き合あう中で、どうしても訂正がおざなりになってしまったり、聞き慣れてしまって違和感に気付けなかったりするかもしれません。
教師側の説明不足による誤用を回避するのはもちろんですが、やみくもに訂正するのではなく、誤用のパターンや原因を探ることで、私たち教師の知識を深め、学習者の誤用に対応していけると良いでしょう。
参考文献/引用
森田良行(1985)『誤用文の分析と研究―日本語学への提言―』明治書院
市川保子(1997)『日本語誤用例文小辞典』凡人社
明治書院企画編集部編著(1997)『日本語誤用分析』明治書院
明治書院企画編集部編著(1997)『続日本語誤用分析』明治書院
高嶋幸太 関かおる編著 岩田日有子 内山聖未 川野さちよ チャン・ティ・ミー著(2018)
『初級者の間違いから学ぶ 日本語文法を教えるためのポイント30』大修館書店

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