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サバイバル日本語って何?何を教えたら良いのか

目次

概要

「サバイバル日本語」ということばを聞いたことがありますか?

 

これは無人島で使う日本語・・ではなく、「日本での生活のために短期的に必要な、最低限の日本語」のことです。

 

簡単な挨拶や雑談から、お店での買い物や注文、病院でのやりとりなど、日常生活には様々な場面がありますが、そこで日本語を使った簡単なやり取りができるようになることが、サバイバル日本語の主な目的です。

 

ここでは、サバイバル日本語を教えることになったら、どんなことに気を付けるべきか?コースのデザインや教材はどう選ぶか?などについて解説していきます。

サバイバル日本語って、具体的に何を教えるの?

サバイバル日本語を学ぶのは、短期滞在の方や日本に住み始めたばかりの方が中心です。短期留学生や短期滞在の会社員・駐在員、その家族などが当てはまります。

 

日本語学習を第一の目的に来日する長期滞在の留学生などと比べると、来日の目的・滞在期間・日本語を使う場面なども異なるため、そのニーズに合わせた授業計画が必要になります。

 

長期的に滞在する方や中上級以上のレベルを目指す方には、語彙や文法を一つずつ積み上げていく勉強法がおすすめできます。しかしそれには数か月から数年の学習時間が必要なため、生活や仕事の場面ですぐに使いたい人や、国際交流などを目的に来日する短期留学生などには不向きです。

 

そこでサバイバル日本語のコースでは、語彙や文法の知識の積み上げはせず、「短いフレーズをそのまま覚えて、実生活ですぐ使えるようになる」ことを目指します。

 

サバイバル日本語で触れる表現は、例えば

「ビール一つ、おねがいします」

「〇〇、ありますか?」

「ここをまっすぐ行ってください」

「トイレ、どこですか?」

「これ、見てもいいですか?」など。

「郵便局・病院・買い物へ行く、場所や道を聞く」などの実際の生活の場面で使える、「短く、簡単で、確実に伝わる」表現が中心になっています。

 

実際には学習者によって日本語を使う場面や相手は異なりますから、学習者の属性や学習期間に合わせて必要な学習内容を検討し、カリキュラムを決めていくことになります。

 

突然、サマーコースなどの短期プログラムのカリキュラムを作ることになっても困らないように、コースデザインや教材の選び方について知っておきましょう。

場面シラバスについて

授業のカリキュラムを決めるときに問題になるのが「どのシラバスを使うか?」ということ。「シラバス」とは授業で学習する項目をリスト化したもののことで、どのような基準で項目をリスト化するかによって種類が分かれています。

 

サバイバル日本語では、「場面シラバス」を採用することが多いです。

 

場面シラバスは「自己紹介をする」「店で買い物や注文をする」「病院で症状を伝える」など、言語の使用場面ごとに語彙や表現を学習していくもので、実際の生活場面ですぐに使える表現に絞って速習できるのがメリットです。

 

前の内容を理解していないと次の内容が分からない「語彙・文法積み上げ式」のシラバスと違い、場面シラバスでは場面ごとに習う表現が独立しているので、どこから始めても、前の内容が定着していなくてもOK。「短期的・実践的」を求められるサバイバル日本語の学習に適していると言えます。

 

テキストはひらがな・カタカナとルビ付きの簡単な漢字で表記されていることが多いですが、読み書きが必要ない学習者の場合にはローマ字表記のテキストで音だけで学んでいくこともあります。

 

せっかく日本語を学ぶのでひらがな・カタカナの学習はぜひ取り入れたいところですが、文字の学習に時間を費やせない場合もありますから、学習者の状況に合わせて対応しましょう。

 

学習者がサバイバル日本語で求めているもの

サバイバル日本語を学ぶ学習者にはどのようなニーズがあるのでしょうか。

人によって異なる学習目標がありますが、どの学習者も共通して求めているのは「居酒屋やレストランなどの生活の場面で、習った日本語を使って「話せた・通じた」という体験です。

 

先述したように、サバイバル日本語では細かい日本語の知識を得ることよりも、簡単な日本語を使ったコミュニケーションの実践に重きが置かれます。

 

学習者もこの段階では「日本の言語文化を体験したい」「日本語で簡単な会話をしてみたい」「生活の最低限のやりとりができるようになりたい」というニーズを持っていることが多いです。

 

学習者にとって、日本語を使ってやりとりした体験は日本滞在での良い思い出になり、その後の日本語学習のモチベーションになります。また、日本に長期的に住む予定の人でも、「とっかかり」としてサバイバル日本語を学び基本的なやりとりができるようになると、日本での生活に対する不安の軽減と自信につながります。

 

まずは日本語の語彙文法を完璧に習得することより「日本語が使えて楽しい」「日本語が通じた・理解できた」という体験をしてもらい、日本留学や日本語学習意欲につなげることが大切です。

 

教材の選び方

サバイバル日本語のコースで市販の教材を使う場合は、文法や語彙の積み上げが不要で、実践的な会話を中心に設計されているものを選びましょう。

 

中にはボランティア教室などで誰でも使えるように、難しい文法の知識がなくても指さしながら会話の助けになるよう作られているものもあれば、文法の意味やルールについて簡単な説明がついているものもあります。いずれも、短期間で終了できるよう簡単な表現に絞って「そのまま覚えて、すぐに使える」よう設計されているものが多いです。

 

メインの教材とは別に、学習者に合わせた内容を行う場合もあるでしょう。例えば、家電製品の説明書や自治体のゴミのルールのパンフレット、子どもの学校のお便りなど、実物を見ながら意味の確認をしたりするなどです。ボランティア教室などではこうしたニーズへの個別対応をしているケースがよく見られます。

 

読み書きが不要な学習者でも、生活に直結する語彙表記などは積極的に取り入れる必要があります。例えば宗教上の理由で食べられないもの、アレルギーで食べてはいけないものの漢字(「豚肉」「牛肉」「卵」などの読み方)など。初級者には難度が高いと思われる語彙であっても、本人が知っておかなければいけないものがあれば、併せて導入することも検討しましょう

 

【教材選びの注意点】

数週間の短期滞在では学習者の細かいレベルチェックなどをするわけではありませんし、授業でできることは多くはありません。教材は限られた時間数の中でできる内容・量のものを選びましょう。

 

教材を選ぶ際に気を付けるポイントは、

・教材で取り上げられている場面や表現が、学習者の年齢・立場などの属性に合っているか

・時間の中で終了できる量か

を検討することです。

教材を終えるのに時間が足りない場合には、その中からさらに絞って内容を凝縮する必要があるかもしれません。プライベートレッスンなど、学習者に細かく合わせられる場合はいくつかサンプルを見せながら相談し、選んでもらうのもひとつの手です。

 

サバイバル日本語のクラスでは、初めて日本語に触れる学習者も多いため、学習者が日本に対して持っているイメージや実際に日本で体験したことを引き出しながら、学習内容と紐づけていく必要があります。

 

学習者がどういった場面に遭遇するのか、どんな場面で日本語を使って楽しめるか、困る可能性があるかなど、「外国人から見た日本」を客観視する必要もあるため、教師の顧客視点や寄り添い力が求められます。

 

【まとめ】

いかがでしたでしょうか。サバイバル日本語の指導では、実践に即した内容であるからこそできる新たな発見があります。学習者と一緒に楽しむ、外国人の視点から日本の生活文化を考えるという視点で、ぜひチャレンジしてみてください。

【参考】

・國頭あさひ、『短期留学生のためのサバイバル日本語教育』創価大学大学院  創価大学大学院紀要 (35), 243-263 (2013-12-21)

・庵功雄、『にほんごこれだけ!2』(2014)、ココ出版

・庵功雄、『にほんごこれだけ!1』(2011)、ココ出版

・渡部由紀子、角谷佳奈、左弥寿子、緒方由希子、『NIHONGO FUN&EASY survival Japanese Conversation for Biginners 2nd Edition』、株式会社アスク

・島崎薫、渡部留美、渡邉由美子、『東北大学における留学生入学前準備プログラムの実践報告 ―サバイバル日本語講座2017の事例―』(2019)、「東北大学高度教養教育・学生支援機構紀要5 p247-260、 東北大学高度教養教育・学生支援機構

・林里香・佐藤尚子、『サバイバル日本語の教材開発と授業実践』(2011)、『国際教育 = International Education 4』 p25-42,千葉大学国際教育センター

この記事の筆者
TCJ・コラム執筆者写真
TCJ日本語講座 非常勤講師
大野 綾香
大学で日本語教育を学んだのち、日本語教育能力試験に合格。日本語学校で留学生の大学受験指導・プライベートレッスン、教材出版等を経験後、2023年よりTCJにて留学コース・ビジネスパーソンのプライベートレッスンを担当。好きな分野は地域日本語教育、音声学。

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