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ヴォイスって何?日本語におけるヴォイスとは、受身、使役など、学習者にとって難しいポイントを勉強してみましょう。

目次

ヴォイスとは何か

一般的に、述語動詞の示す動作・作用に関わる関与者の把握の仕方を示す文法的なカテゴリーは、「ヴォイス (voice、態)」と呼ばれます。『新英文法辞典』では次のように説明されています。「主語と、動詞の表す動作との主客関係を表す動詞の形態をいう。Jim read ‘Hamlet’ と ‘Hamlet’ was read by Jim のような変化をいう。前者を能動態(ACTIVE VOICE)、後者を受動態(PASSIVE VOICE)という。両者の伝える客観的事実そのものは同じであるが、話者の観点が違うのであって、前者は動作主の観点から、後者は動作を受ける対象物の観点から述べている。」

日本語におけるヴォイス、なぜヴォイスが必要なのか

日本語におけるヴォイスとして、早津(2019)ではヴォイスを「文の主語が、動詞の表す動き(動作や変化や感情)の主体であるか、そうではなくて影響の被り手や動作の引きおこし手などであるかという、主語をめぐる文構造のあり方の体系であり、それが述語動詞の形態論的な形に支えられているという点でまずは動詞の形態論的なカテゴリーであるとともに、文の構文的な機能(主語・ヲ格補語・ニ格補語等)と文法的な意味(主体・被り手・引きおこし手等)の一致とずれの体系だという点で構文論的なカテゴリーでもある。」と定義しています。そして、能動文、使役文、受身文を中心的なヴォイスとみなし、テモラウ文とテヤル文・テクレル文などを、周辺的なヴォイスとしています。

例文を用いて説明したいと思います。庵(2000)では、以下のようにヴォイスを説明しています。

AとBという2つの野球チームが対戦して、AチームのバッターがBチームのピッチャーからホームランを打ったとします。Aチームのファンであれば「〇〇選手がホームランを打った」と言うでしょうし、Bチームのファンなら「○○選手にホームランを打たれた」と言うでしょう。

この「打つ」と「打たれる」のような違いは、「〇〇選手がホームランを打った」という事実をAとBどちらの立場からとらえるかによって生じるもので、このような表現の対応をヴォイスと呼びます。

日本語には次のようなヴォイスの表現があります。

・受身 「AがBを殴る」に対する「BがAに殴られる

・使役 「AがBを殴る」に対する「CがAにBを殴らせる

 

以上のように、「A」、「B」、「C」、どの視点で文を作るかという点で、ヴォイスは重要となります。

 

 

学習者の誤用

日本語教育の観点から、日本語学習者のヴォイスの誤用について見ていきましょう。

佐治(1992)は、中国語を母語とする日本語学習者のヴォイス可能態、受身態、使役態、自発態)の誤用の分析をしています。その結果、「感動する」、「感心する」、「感じる」などのような心理の動きを表す動詞の受身形、使役形、自発形の誤用が多く見られると述べています。また、誤用の原因としては、主に日本語への不十分な理解を挙げています。

上記以外で日本語学習者のヴォイスの誤用でよく言われているのが、「過剰使用」、つまり、使用の必要がないのに使用しているケースがあります。

 

・人びとは環境問題を重要視されるようになった →する

また、その逆の、使用すべきなのに使用していないケースがあります。

・文字を記録することが生み出してからだ。

さらに、自他動詞構文の混同も多く見られる誤用の1つです。

例えば、

・漢字が中国から日本に伝われる →伝えられる

上記の例は、自動詞の受身と他動詞の受身を混同している例です。「伝わる/伝える」のような対をなす動詞の自他を混同していることにより生じる誤用となっています。

指導方法、指導のポイント

3の学習者の誤用でみたように、ヴォイス受身形や使役形は日本語学習者の誤用が多い項目の1つです。では、教える際にどのような工夫をすればいいのでしょうか。

王(2018)では、ヴォイス表現と自他動詞構文に関する指導について以下のような提言をしています。

どの現象とどの現象を関連付けて教えるのかを考える必要がある。

例えば、他動詞と他動詞が関係するヴォイス表現に関して、まず、1)「書く」という他動詞からなる他動詞文を学習者に教える。その次に、2)項の数(一般的には2項、省略あるいは背景化されている場合もある)、項と項の間の関係(事態の参与者間の関係)、視点(どの参与者の視点から事態を叙述する)、動詞の意味タイプなどを踏まえて、他動詞の使役文(「書かせる」)、他動詞の受身文(「書かれる」)、他動詞の可能構文(「書ける/書く ことができる」)を学習者に教える。さらに、3)それぞれのヴォイス表現の異同、動詞の自他の弁別、他動詞の受身文と自動詞文の異同、他動詞文と自動詞の使役文の異同を学習者に教えていく、といった方法が考えられます。

このように、ただ1つの文法項目として受身形や使役形を教えるだけでなく、格助詞のパターン等しっかり定着できるよう工夫していく必要があると言えます。

日本語教育関連ワードで受け身、使役と併記されるワードについて

受身」「使役」と共に併記されることが多いワードに「使役受身」というものがあります。次の例文を見ていきます。

・「子どものころ、母親に漢字の練習をさせられた」

使役で言い表されたことが、さらに受け身の形で表現されることを「使役受身」といいます。上記の例文のように、行為を強制されるという意味を、被使役者の側から表現した文になります。被使役者が嫌だと思ったり、迷惑だと感じていることを表現するのに使われます。
日本語教育能力検定試験の問題で、「【 】内に示した観点から見て、他と性質の異なるものを1つ選べ。」というものがあります。ここで、使役文のなかに1つだけ使役受身文が入っているというような問題もみられます。しっかり区別できるようにしておきましょう。

まとめ

今回、「ヴォイス」について、特に日本語のヴォイスを中心に、日本語学習者の誤用や指導方法まで見てきました。ヴォイスの受身形や使役形は日本語学習者の誤用が多い項目の1つです。ただ1つ1つ教えて終わりでなく、自他動詞と絡めて混同しないように復習していくなど、工夫していくといいでしょう。

参考文献

庵功雄(他)(2000)『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク

王辰寧(2018)『中国語を母語とする日本語学習者のヴォイスの誤用分析 : 作文コーパスをデータとして』熊本大学博士論文

大塚高信(編)(1959)『新英文法辞典』三省堂.

佐治圭三(1992)『外国人が間違えやすい日本語の表現の研究』ひつじ書房

この記事の筆者
高橋先生の写真
日本語教員養成講座 講師
高橋亜里沙
幼少時、タイや香港といった海外に住んだことをきっかけに、語学に興味を持つ。また、日本語を教える際に日本語を用いて教えるという、直接法について知り、日本語教師に興味を持つ。大学院に通いながら、日本語学校の講師を経験。専門は、社会言語学、日本語教育学。

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