

学習者の日本語学習動機を知ろう
概要
「日本語を勉強したい!」という外国人は多いものの、どんなきっかけ・理由で学習を始めるのかは人それぞれ。この記事では日本語の勉強における「学習動機」と、日本語教師が学習者の「学習動機」について知っておくべきことについて解説します。
学習動機とは
みなさんは習い事をした経験があるでしょうか。子どもの頃やっていたこと、大人になってから始めたこと、あるいは子どものときから今までずっと続けていることがあるという方もいらっしゃることでしょう。
習い事を始めたとき、どんなきっかけで始めましたか?「友達や兄弟がやっていたから」「親のすすめで」「自分がやってみたかったから」「スポーツ選手やドラマや漫画のキャラクターにあこがれて」など、きっかけは人それぞれだと思います。
語学についてはいかがでしょうか。学校で習った英語などの外国語の授業や大人の習い事として外国語を学ぶことがありますが 、外国語を学ぶときにはどんな動機があるでしょうか。「かっこいい!」「海外の友達を作りたい」「好きなドラマを字幕なしで見たいから」「仕事でのキャリアアップや進学・就職のため」「語学自体が楽しいから」・・・みなさんの外国語学習における動機はいかがですか?
このような、何かを学習するきっかけになることややる気を起こさせるもの、モチベーションのことを「学習動機」と言います。学習者の学習動機は勉強の進捗に影響を及ぼすものですから、単なる個人の興味ややる気の話ではなく、教師にとっても重要なものです。
日本語教師の養成講座などでも学習項目の一つとして心理学があり、その中で学習動機についても学びます。ここではその一部を簡単にご紹介します。
内発的動機と外発的動機
教育学の分野では一般的に以下の二つの学習動機があると言われています。一つは「内発的動機」、もう一つは「外発的動機」です。
内発的動機は「興味があるから」「楽しいから」「学習自体が面白いから」といった、自分の内面から出てくる理由(内的要因)に裏付けられた動機のことです。
一方で外発的動機というのは、「外国語ができると褒められる」「外国語のスキルによって昇進や昇給が見込める」といった、外側からもたらされるもの(外的要因)の利益を期待して起こる動機のこと。
動機は一つではなく、内発的動機と外発的動機どちらも持っていることも多いです。どちらがより良いというものではありませんが、「好きこそものの上手なれ」というように、「それ自体が楽しい」という自分の関心から出てくる内的な動機の方が、より学習継続がしやすいと言われています。
○○語ってかっこいい!と息まいて語学書を買ってみたものの「積ん読(本を読まずに積んでおくこと)」をしてしまったり、試験のために必要だから勉強したけれど、モチベーションが続かなかった・・というような経験がある方も多いのではないでしょうか。
統合的動機と道具的動機
以上は教育学で言われている動機ですが、より細かく外国語学習に関して言われている動機の分類としては「統合的動機」「道具的動機」があります。
「統合的動機」は、目標言語の文化や社会に入ることを目的とした動機です。冒頭で挙げたような「海外の友達を作りたい」「海外の映画やドラマを字幕なしで見たい」「好きな本の原作を読みたい」など、その社会や文化圏の一員として参加してみたいという気持ちがモチベーションになっている場合ですね。
もうひとつは「道具的動機」で、社会的地位の向上や金銭的な利益を目的とした動機で、進学、昇進、昇給、転職などのために外国語のスキルを身に付けたいというような場合です。進学や就職では、合格基準として資格の取得が求められることもあり、日本語学習者でも「JLPT(日本語能力試験)でN1、N2レベルに合格する」「EJU(日本留学試験)で〇点以上取る」など、語学試験の合格やスコアの取得を目標にしている人も多いです。
日本人でも、例えば「TOEICで〇点以上を取る」「英検〇級を取得する」などの目標を持って英語の勉強をしたことがある方も多いのではないでしょうか。最近ではTOEICや英検などの外部試験のスコアが高校や大学の入学試験で使えるケースもあるようですね。
これらの学習動機の形成には単に個人の興味だけでなく、その人のそれまでの経験やそのときの生活状況、住んでいる国や地域と目標言語の国や文化圏との関係性も影響しています。日本語学習に限って言えば、学習者の国で日本がどのようなイメージを持たれているか、日本との外交関係はどうか、本人の周りに日本人がいるかなど、環境的な要因も知っておくと学習者を理解する助けになります。
日本の日本語学校に通っている学習者の学習動機は何だろう…?
日本語の勉強のために日本語学校に通っている学習者は、どのような学習動機を持っているのでしょうか。ひとことで「日本語を勉強したい」と言っても、趣味のため、実用のため、家族や友達とのコミュニケーション、生活のためなど、人によって「必要な日本語」は異なります。
日本語教師をしていてよく聞かれる日本語の学習動機は、
・日本での進学や就職のため(入学試験や就職試験に合格したい)
・会社の人事教育の一環として、研修の受講や、昇進のための資格取得が求められている
・退職後日本で余暇を過ごしたいと思っているので、その準備のため
・日本のアニメやマンガ、小説、ドラマなどを日本語で理解したい
・日本の生活文化や伝統文化、歴史や建築などに関心がある
・自分は海外で育ったが両親や親せきなどに日本人がいるため、日本語や日本文化を学ぶことで自分のバックグラウンドについて理解を深めたい
・会社の同僚や顧客と仲良くなるために日本語で雑談ができるようになりたい
・日本語で会議やプレゼンができるようになってキャリアアップを目指したい
・語学学習そのものが好き
・日本にいる家族と一緒に暮らすため来日したばかりのため、実生活で使える日本語を学んで最低限の日常生活で困らないようにしたい
・日本人の友達やパートナーがほしい、あるいは友人・恋人・家族が日本人なので、日本語でもっとコミュニケーションが取れるようになりたい
などなど。
日本語学校に在籍している人の割合としては留学生が多いため進学や就職を主な学習目的としているケースがほとんどですが、それだけではなく、日本のアニメが好きだからもっと知りたい、日本人の友達もほしい、将来は国に帰って日本に関わる仕事がしたい、あるいは日本に残って家族を持ちたい、など複数の学習動機を持っていることも多いです。
一人の人でも来日前後で学習動機が変わっていったり、日本での生活を通して新たな動機が生まれたりすることもあります。
また、日本語学習の動機として「日本や日本文化が好き」を挙げる人は多いですが、現実には「自分の意思ではないが理由があって来日した」「生活や金銭的事情のために勉強せざるを得ない切迫した事情がある」という人もいることを、教師は知っておかなければいけません。
いずれにせよ、それぞれの学習者が日本語学習を通して自分の社会生活・言語生活が豊かになるよう、サポートするのが日本語教師の仕事です。
学習者の学習動機を知って、授業に活かそう
プライベートレッスンでは本人の生活スタイルや日本語学習への希望を丁寧にヒアリングして学習内容を決めていきますが、クラス授業の場合は個々人に合わせられる範囲には限界があり、一つの授業で全員のニーズを満たすことは難しいです。
通常クラス授業では、来日目的やレベルに応じたクラス分けが行われ、20人ほどの学習者が一緒に学んでいます。しかし細かく聞いていくと個々人が持っている学習動機や好きな学習スタイルは様々。
試験の合格に必要な解法やビジネスに必要な表現に的を絞って効率的に学習したい学習者と、国際交流や文化体験に価値を置いて学習をしたい学習者がいた場合、試験対策や座学に偏ったり、反対に会話やゲームなどの交流活動に偏ったりすると、特定の学習者とニーズが合わなくなってしまいます。
まずはコースの目的に合った授業設計をすることが大切ですが、授業の要所要所で副次的な活動を取り入れるなどして学習者それぞれの要望を反映できると、全体として満足度の高い授業になるのではないかと思います。
自分が担当するクラスの学習者の学習動機やニーズを把握して、授業づくりやコミュニケーションに活かしていきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。学習動機の種類や日本語学習者の動機について、どんなものがあるか理解できたでしょうか。
ご自身の外国語学習経験とも照らし合わせながら、授業計画やモチベーション管理にお役立ていただければと思います。