日本語学校におけるチームティーチング
はじめに
チームティーチングという言葉を聞いたことがありますか。複数の教師が協力しあうことでより良いコース運営を可能にするために行う方法です。日本語学校などの日本語教育の現場の多くで行われています。日本語教師として日本の国内で働いても、海外で働いても「チームティーチング」は働き方として必ず関わるといっても過言ではありません。今回は、「日本語学校におけるチームティーチング」を取り上げてみたいと思います。
1.チームティーチングとは
チームティーチングとは二人以上の複数の教師がチームを組み、一つのクラスを運営していく協力型の授業組織です。複数の教師が連携してクラスの「授業計画」「実施」「評価」を行っていきます。日本語教育の現場で働くことになれば必ず関わっていくことになるものです。日本語学校をはじめとする日本語教育機関の多くがチームティーチングでの授業をすすめているからです。日本国内だけでなく、海外の日本語教育機関で働く場合、あるいはプライベートレッスンでも時にはチームティーチングで日本語教育を行うことがあります。
日本語教育のチームティーチングには学習語のノンネイティブ教師とネイティブ教師が一緒に授業を行う、日本語教師と他の教師がいっしょに授業を行うなど様々な形態があります。
今回は、日本語学校など、日本語の教育現場でよく行われているチームティーチングはその方法が少し異なっているのでご説明します。日本語教育の現場でのチームティーチングは、1回の授業に複数の教師が入って一緒に授業を行うのではなく、時間や日にちの単位で違う教師が授業を行うことを指します。
例えば、1つのクラスが一週間に5日授業があるとすれば、それを2人~5人の教師が担当し、それぞれの教師が違う曜日に授業を行うということです。
今、日本語学校の多くがこのチームティーチングを採用しています。週5日の授業で何人の教師が1クラスを担当するのかなどの細かい運営方法は各学校によって違いますが複数の教師で1つのクラスを運営していくという方法はどこの教育機関でも行われています。
2.日本語学校のチームティーチングは何をするの?
日本語学校でのチームティーチングの方法はそれぞれの学校によって異なりますが、概ね次のような方法で行われます。
① クラス担任、コーディネーター役の教師がクラス目標、方針を踏まえた上で進度予定表を作成します。各教師は予定表に沿って授業計画を作成し、授業を行います。
② 毎回授業が終わったら授業の引継ぎをします。引継ぎの方法は学校によって決められています。報告内容は、進度、学習者の出席欠席、授業内容で翌日以降に引き継ぎたいこと、学習者の状況の変化、気になる点などです。
③ 学期の初めや終了後(3か月~半年に1回程度)にはクラスミーティングを行います。
学期初めのミーティングでは各クラスの目標、方針を決定し確認します。また、授業の進め方や宿題なども打ち合わせをします。
学期終了後は反省や改善点の話し合います。次の学期、学習者が次にはいるクラスへの申し送りも必要です。
④ その他、突発事項や急な予定変更、あるいは早急に解決すべき問題点がでてきたときにはクラス担任を中心に担当者全員が連携して対処していきます。
3.チームティーチングの目的と効果
なぜチームティーチングを行うのか、その目的と効果を考えてみたいと思います。
チームティーチングを行う目的は複数の教師が協力してクラスを担当することで多面的でより良いクラス運営を行うことです。学習者個々の個別目標が設定されており、それを担当教師全員が把握し、目標を実現できるように手助けできるクラス運営を目指します。学習者同士が仲良く、楽しく、明るく学べる学習環境を作ることも大切です。
チームティーチングの効果を3つあげます。
①複数の教師が一つのクラスを担当することで、学習者は様々タイプの教師と接することができます。様複数の教師と接することでいろいろな日本語や学び方に触れることができます。
②複数の教師が一人の学習者を観察し、その情報を共有することで学習者の目標到達に適切な手助けができ、また学習者が抱える問題点の解決がしやすくなります。
担当する教師はバックグラウンドもこれまでの経歴も日本語教師歴も全て異なった人がチームになります。ですから、学習者一人の行動や日本語力を観察しても、視点は教師それぞれに異なります。例えば、学習者の作文を読んだ時、日本語の正しさや文法に注目する教師もいれば、学習者が持つ発想力や創造性に気づく教師もいるし、学習者の個性や生活の状況を読み取る教師もいます。互いの視点をシェアすることで一人の学習者に対しより効果的なアプローチができます。
③教師の特性を生かしたクラス運営の業務分担ができます。
4.チームティーチングの課題
チームティーチングでクラス運営をすることにはいろいろなメリットがありますが、一方で難しさもあります。
①いろいろな経歴や背景を持った教師が一つのチームになるので、教師間のコミュニケーションの取り方が難しかったり、人間関係に気を遣うこともあります。
②急な予定変更に対応しなければならないことがあり、授業準備が大変になることがあります。学校の行事が入ったり、前日の授業の進度がずれてしまうことが発生する場合もあります。
③教師間で授業の方針や目的、到達目標が共有されていない場合、担当教師の授業にムラが出来てしまうことがあります。
④自分の授業のことだけを考えてしまい、クラス全体のこと、学習者の個別目標を見失ってしまうことがあります。
いずれにしても、教師間の連携とコミュニケーションが十分にとれていないと、クラスの雰囲気や環境にも影響が出てしまいクラス運営に問題が生じる原因になりかねません。
5.チームティーチング力はどのように育成される
チームティーチングによってうまくクラス運営を行っていく鍵は、何と言っても担当教師間の細かな意思疎通や連携です。
① クラス担当者全員がクラス運営の方針や授業の進め方を共有し同じ方向性でクラス運営をする必要があります。
② クラス担当者全員が自分の授業だけでなく他の教師が行う授業も常に把握しておく必要があります。
そのために、必ず引継ぎは確認しましょう。また、自分が引継ぎをする際も、クラス運営に必要な情報を共有するようにしましょう。
③ 学習者が抱える問題に気づいたとき、あるいは相談を受けたときはその内容、それに対してどう対応
したかをクラス担任や他の担当教師に報告しましょう。
④ チームティーチングではクラスの目標やクラス運営の方針に基づいて、使用する教材や進度、担当する授業内容が決まっています。そこから大きく外れないよう、担当教師一人一人が協調性を持つことが必要です。
6.チームティーチングに併記される用語
チームティーチングは言語と教育分野の「言語教育法・実習」の中で出題されます。
チームティーチングの例として「アーミーメソッド」が挙げられます。アーミーメソッドは英語で文法や音声の解説を行う教師、習得する言語の口頭練習を行う母語話者の二人で行うチームティーチングです。
「インストラクショナルデザイン(IDプロセス)」は教育設計という意味ですが、それぞれの環境において最適な教育効果をあげる方法の計画をたてるという点でチームティーチングと関わりがある用語です。
また、チームティーチングは教育法や実習の際に使われるので、実際の授業や現場で使われる「授業計画」「教案」「評価」のような用語などもいっしょに提示されることが多いです。
7.まとめ
チームティーチングは日本語教育に携わる中では必ず関わってくるものです。今回はクラス運営のチームティーチングを中心に説明しました。クラス運営だけでなく、学校全体の運営も全てチームティーチングで行われています。養成講座などで行われる実習も、前後に担当される方との連携が必要になりますので、チームミーティングのひとつになります。他の教師と協力しあい、多面的な視点を共有しクラス運営に生かすことで活発で学習者が能動的に学べるクラス運営をしていきましょう。
<参考>
令和5年度・4年度・3年度 日本語教育能力検定試験試験問題
(公益財団法人日本国際教育支援協会)
日本語教師になる本2024年イカロスムック
(イカロス出版)
日本語教員試験対策用語集
(アルク)
日本語教員試験まるわかりガイド
(アルク)
国際交流基金日本語教育通信 授業のヒントバックナンバー
「ティームティーチングで活気のある授業にしよう」
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/tsushin/hint/201910.html
ヴォイスって何?日本語におけるヴォイスとは、受身、使役など、学習者にとって難しいポイントを勉強してみましょう。
まず、ヴォイスとは何かについて説明します。そして、日本語のヴォイスについて説明していきます。日本語教育の点から、日本語学習者のヴォイスの誤用、指導方法についても述べていきます。