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CLIL(Content and Language Integrated Learning/内容統合型学習)とは?

目次

概要

「CLIL」とは、1990年代にヨーロッパで始まった言語教育の手法のひとつで、最近は日本でも注目されています。日本語教育でも上智大学をはじめ大学での日本語教育を中心に研究が進んでおり、今後広がっていくと考えられます。今回は「CLIL」とは何か、どんなメリットがあるかということをご紹介します。

1.CLILとは

「CLIL」はクリルといわれています。少し可愛らしいネーミングですね。言語教育の手法のひとつですが、その内容もとても生き生きとして活発な、そして学習者が目を輝かして学習に取り組めるユニークな教育方法です。
「CLIL」とは
「CLIL」とは「Content and Language Integrated Learning」、日本語では「内容言語統合型学習」というものです。
「内容言語統合型学習」とは、簡単にいうと「内容(課目・教科・コンテンツ)」+「言語学習」で、学習言語によって教科・課目の理解をするということです。
例えば「アジアの子どもが英語で理科や数学を学ぶ」「日本で働いている英語話者が日本語で日本料理の作り方を習う」といったようなことです。
「CLIL」は学習(インプット)と使用(アウトプット)の両方を重視しており、4技能「読む・聞く・書く・話す」をバランスよく習得できるという効果が期待されます。

「CLIL」の4つのC
「CLIL」の理念は「4つのC」と呼ばれています。「CLIL」の特徴は、以下の「4つのC」を統合することで言語教育の質を高めていくことにあります。

「Content(科目や内容)」
「Communication(言語知識・対人スキル・言語使用)」
「Cognition(様々なレベルの思考力)」
「Culture/Community(協働学習、異文化理解)」

「Content」は学習する内容のことです。時事問題や異文化理解などのテーマや数学・理科・社会・音楽などの教科を指します。
「Communication」は学習する言語、英語や日本語のことです。「CLIL」ではインプットとアウトプットの両方を重視して行うので、4技能「読む・聞く・書く・話す」をバランスよく習得することが期待されます。
「Cognition」は思考のことです。「CLIL」では言語を暗記したり理解する表面的な思考にとどまらず、応用、分析、評価へとより深い思考につなげていきます。
「Culture/Community」は共に学ぶ、異文化を理解するということです。ペアワークやグループワークなどの協働学習を行う中で異文化を理解し視野を広げていきます。

「CLIL」10の原則
「CLIL」は内容やテーマの学習と言語習得を同時に行うので、そのバランスが大切です。
学習をすすめる上で重要な原則は次の通りです。

*内容の学習と語学の学習の比重を1:1にする。
*オーセンティック素材(新聞・雑誌・インターネット・動画などの生教材、レアリア)を優先的に使う。
*文字だけではなく、イメージや音声、グラフや表、数字、映像などの情報を使う。
*さまざまなタイプの思考力(暗記、理解、応用、分析、評価、想像)を活用する
*多くのタスクを与える
*共同作業(ペアワーク、グループワーク)を重視する
*異文化理解、国際問題などの要素を取り入れる。
*内容の学習、言語習得の学習のどちらにも学習の手助けを用意する。
*4技能(話す・聞く・読む・書く)をバランスよく統合する。
*学習スキルの指導を行う。

2.CLILを日本語教育の授業で用いるメリット

「CLIL」を日本語の授業に取り入れるとどんなメリットがあるでしょうか。大きく分けて2つの観点から考えてみたいと思います。

①多重知能理論(Multiple intelligence)で言語学習を考える
「暗記や文法の理解が苦手だから、語学の学習はちょっと・・・」という方はいらっしゃいませんか。実は私もその一人です。何回読んでも覚えられない、文法の説明をされてもよくわからない。
従来の言語教育は言語知識を重視し、特に文法を理解する、暗記する力が必要であるとされてきました。日本語教育も例外ではありません。しかし、暗記や文法の理解というのは言語を習得するために必要な能力のごく一部にすぎません。
1983年にアメリカの心理発達学者ハワード・ガードナーによって提唱された「多重知能理論」は人間の知能を8つに分け、それらの知能を複合的に働かせていくことで、人が持つ能力を引き出していくという考え方です8つの知能は下記の通りです。

1.言語的知能(Varbal/Linguistic)
2.数理・論理的知能(Logical/Mathematical)
3.   空間的知能(Visual/Spatial)
4.身体運動感覚的知能(Bodily/Kinesthetic)
5.   音楽的知能(Musical/Rhythmic)
6.   人間関係的知能(Inter-personal/Social)
7.   内省的知能(Intra-parsonal/Introspecitive)
8.  自然的知能(Naturalist)

「CLIL」は言語をコミュニケーションの手段としてとらえ、「内容」と「言語」両方の学習を進めていくので、暗記や文法学習だけでなく様々な知能を組み合わせて活用していきます従って、暗記や文法学習が苦手でも「内容」に興味や関心を持てば、それについて考え、自分の考えや意見を表現する活動に結びつけられ、言語学習につながっていきます。
また、協働学習を多く取り入れ、他の学習者と意見を共有したり、自分の意見を主張することを行う機会が多いので、日本語学習の中では自然に日本語のコミュニケーションを取れるようになります

オーセンティシティーで学習者のモチベーションを上げる
「CLIL」ではオーセンティック教材を活用します。「オーセンティシティ」とは信憑性があるもの、信頼できるものという意味です。そして、「オーセンティック教材」とは実生活に即した本物の素材を教材に使うということです。日本語教育では「生教材」「レアリア」と言われてきたものです。例えばテレビのニュース、新聞、雑誌、絵本、信頼性の高い動画などを授業の素材として使います。これらを使うことで授業の内容が日常的で自分の生活に近いものとしてとらえやすくなり、興味がもてるようになるでしょう。興味を持ったり、自分の意見を引き出せる内容であれば授業にも積極的に取り組めるのではないでしょうか。また「CLIL」では写真や動画、図表を使いながら授業を進めていくので学習者の興味や関心をひき、主体的、積極的に学習に取り組むことができます。

3.CLILの種類

「CLIL」の種類について簡単に説明します。「CLIL」は授業目的と頻度、ウェイトのかけかた、使用言語によって8つの種類に分けることができます。

①Hard CLIL
「内容」を重視したもの。学習者、日本語教師ともに専門的な内容を日本語で理解できる、あるいは指導できる力がある場合。

②Soft CLIL
言葉の知識や技能を教えながら「内容」に関するものも授業で扱っていく方法。

③Heavy CLIL
毎回の授業を「CLIL」で行う。

④Light CLIL
時々「CLIL」を取り入れて授業を行う。

⑤Total CLIL
授業時間の全部を「CLIL」で行う。

⑥Partial CLIL
授業の中で部分的(例えば授業時間の半分)を「CLIL」で行う。

⑦Monolingual CLIL
学習する言語(例えば日本語)だけで授業を行う「CLIL」。

⑧Bilingual CLIL
学習する言語(例えば日本語)と媒介語(例えば英語)を交えて授業を行う。

4.日本語教育で「CLIL」を取り入れる

日本語教育の現場では実は「CLIL」に近い授業や活動は盛んに行われています。ペアワーク、グループワーク、ピア・ラーニング、ディスカッション、プロジェクトワーク、ポスターワークなど、学習者が協働学習する授業は日本語教育の現場で盛んに行われていると思います。
これらの協働学習や活動を計画し実践する中で「CLIL」の4Cを意識していくことにより、学習と使用の相乗効果が今まで以上に期待できるのではないでしょうか。
具体的には、前述「3. CLILの種類」を参照しながら、コース全体の授業を「CLIL」で行うのか部分的に行うのか、「内容」をメインにするのか、「言語知識」を重視するのか、あるいはその中間のスタイルにするのかで決めていきます。

私が以前行った例をご紹介しましょう。
・日本語学校 上級クラス(5名)、中級クラスA(4名)、中級クラスB(4名)
・卒業を間近に控えた1月~2月に実施
・テーマ:「SDGsを知ろう」

① SDGsについて知る (45分×2)
1) SDGsの説明動画を見る
2) SDGsのパンフレットを読み 語彙や意味を調べる

② SDGsについて話し合う(30分×1)
1) 各クラスごとに、SDG’sのどの項目について関心があるかを話し合う
2) SDGsの項目の中で最も関心をもったものを一つ決める

③ 関心がある項目について調べる
1) 取り上げた項目の具体例を調べる(45分×2)
2) 具体例の分析をしてみる(45分×1)

④ 関心がある項目について、自分たちができることを考える
1)関心がある項目について自分たちの生活の中で実践できることを話し合う(45分×1)

⑤ 発表準備をする(45分×4)
1) 調べたこと、考えたことについてポスターを作成する。
2) 発表の原稿を作成する。
3) 発表の練習をする。

⑥ 発表会を行う(60分×1)
1) 担当講師、他の講師、初中級の学生が発表を聞く。
2) 担当講師以外の講師や発表以外のクラスの学生が講評する。

⑦ 振り返り(30分×1)
1) 学習者自身の気づきや新たにわかったことなどをシートに記入し各クラスで振り返る。

実施したものが「CLIL」の4Cのどれに該当するかぜひ考えてみてください。
また、これを実施するにあたり担当講師がどのような準備をし、どのような指導をしたかも想像してみて頂けたらと思います。

日本語教育における「CLIL」の研究は現在大学での日本語教育を中心に研究が進められていますが、今後、日本語学校やビジネス日本語、地域における生活日本語の場でももっと注目されていくと思います。なぜなら「CLIL」が実践されていく土壌はすでに多くの現場にあるように思えるからです。

まとめ

「CLIL」は1990年代に、ヨーロッパを中心に生まれた言語政策の推進手段の一つです。
「CEFR(CommonEuropean Framework of Refrence for Langage:ヨーロッパ言語共通参照枠)」の普及とともに急速に広がってきました。過去には日本語能力検定試験でも出題されたことがあり、これからの日本語教育の中でも重要なキーワードになっていくと考えられます。

*「CLIL」とは「内容」と「言語」を一緒に学習していく方法であること。
*「CLIL」の理念は4つのC(Content(内容)Communication(言語知識・言語使用)Cognition(思考)  Community/Culture(協学・異文化理解))であること

この二つを押さえましょう。

<参考資料>

日本CLIL教育学会 https://www.j-clil.com/clil

渡部良典・池田真・和泉伸一(2011)『CLIL内容言語統合型学習 上智大学外国語教育の新たなる挑戦 第1巻 原理と方法』上智大学出版

奥野由紀子編著・小林明子・佐藤礼子・元田静・渡部倫子著(2018)『日本語教師のためのCLIL入門』凡人社

柏木賀津子・伊藤由紀子(2020)『小中学校で取り組むCLIL授業づくり』大修館書店

和泉伸一(2016)『フォーカスオンフォームとCLILの英語授業(アルク選書)』アルク

P. Mehisto, D. Marsh, M. Frigols (2008) Uncovering CLIL : content and language integrated learning in bilingual and multilingual education, Macmillan Education

 

この記事の筆者
TCJ日本語講座 非常勤講師
宮下利江
2001年から日本語教師をしています。 現在はTCJで社会人のためのクラスを担当しているほか、 留学生の日本語、ボランティアで生活者の日本語にも 携わっています。今でも授業準備に頭を悩ませ、授業前は 緊張でドキドキ。「今日のクラスは楽しかった」の一言が 何よりも励みになっています。

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