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「やさしい日本語」とは

やさしくない日本の現状

やさしい日本語」とは、普通の日本語よりも簡単で、外国人にもわかりやすい日本語のことです。簡単という意味の易しい、親切という意味の優しい、の二つの意味合いがあります。日本には多くの外国人が住んでおりますが、令和4年末に発表された在留外国人統計によると、約307万人おり、国籍別では上位から中国・ベトナム・韓国・フィリピン・ブラジルと続きます。これらの国の母国語は英語ではないことから、各自治体では多言語化が進んでおります。

例えば、日本で暮らすために必要な生活ルールの一つに、ゴミのルールがあります。ゴミの分別方法を外国人の方に知らせるために、英語・中国語・韓国語などで多言語表記されています。そのため、外国人の方と意思疎通するための対応として、多くの自治体では、文章では多言語表記、会話ではポケトークなどの翻訳機を使えばいいというのが現状です。

窓口で直接、外国人の方とコミュニケーションする場合はどうでしょうか。外国人の立場として想像してみてください。窓口のスタッフは丁寧な日本語を話そうと敬語硬い表現を使って話しかけてきます。そのような日本語は難しいので、分からない顔をしていると翻訳機を渡されて、ロボット口調のぎこちない会話を強いられます。簡単な日本語なら使えるのに、窓口の日本人は簡単な日本語を使ってくれないのです。

「やさしい日本語」が使えない日本人

多くの日本人が、やさしくないわけではありません。簡単な日本語を使いたくないわけではないのです。外国人の方からすれば信じられないかもしれませんが、我々日本人は恥ずかしながら簡単な日本語が使えないのです。もっというと、何が簡単で難しいのかが分からないのです。

言葉には色々な表現がある中で、例えば、昼ご飯という言葉がありますが、昼食とかランチとかお昼とか、色々な言い方がありますよね。その中でどの言葉が簡単で難しいのかが分からないということなのです。ランチは英語だから簡単だろうという人もいれば、昼食は漢字だから中国人なら分かるだろうという人もいるかもしれません。しかし、どちらの意見も簡単とは言えません。

ランチは正確な英語発音ではなく和製英語なので、英語圏の方に伝わらない可能性があります。また、昼食は中国語で午餐なので、ちゅうしょくという発音では伝わりません。では、簡単な日本語はどの言葉でしょう。昼とご飯という単語が理解できるのなら、昼のご飯という言い方が伝わる可能性が高いです。このように、日本語には無数の言い方があり、それらの言葉を日本人は無意識に選別して使っていることから、どれが簡単なのかが瞬時に判断できないのです。

「やさしい日本語」は、おもてなしの精神

簡単な日本語は実は難しいという話をしましたが、無理に簡単に言い換える必要はありません。言葉には正解がないからです。大切なのは、伝えたい言葉が伝わるかどうかです。英語を勉強していたときのことを想像してみてください。ある内容を英語で伝えたくて、知っている単語を適当に並べてみた経験はありませんか。その時はうまく伝えることができなくて、もどかしい気持ちだったかもしれませんが、やさしい日本語も同じです。

伝えたい内容を外国人の方に日本語で伝えるときに、いつも無意識に話している日本語でなく、外国人の方ならきっと分かる言葉を考えて、その時出てきた単語をいくつか並べてみてほしいのです。そのもどかしさが外国人の方にとっての親切に繋がります。世界共通語である英語が話せるからといって世界中で生活しやすいというわけではありません。それと同様、日本で生活する外国人の方に使う英語も正直あまり役に立たないのです。だからこそ、どんな外国人の方にも自信を持ってやさしい日本語を使ってほしいと思います。

やさしい日本語の技術的な特徴には、はっきり言う、最後まで言う、短く言う、とありますが、大切なのは、何より伝えようとすることです。相手のために、困っている人のために、手を差し伸べる気持ち。それが、やさしい日本語の真髄です。

日本語教師は「やさしい日本語」の伝道師

ティーチャートークとは、教師が学習者に話すときの言葉です。その話術を使って、多くの日本語教師は日本語学習者に日本語を教えています。中上級レベルの学習者であれば、教師が話す語彙レベルは少し下げる程度で問題ないですが、初級レベルの学習者であれば、かなりの程度で下げないと学習者は理解できません。そのため、ティーチャートークは日本語教師にとって不可欠であり、学習者のレベルに応じて意識的に語彙をコントロールしています。

この話術の有無が、一般日本人と日本語教師との差になるわけですが、そんなティーチャートークの根底にあるのが、やさしい日本語です。つまり、多くの日本語教師は、やさしい日本語を普段から使用しているということです。

やさしい日本語には正解がないですが、考え方ははっきりしています。外国人の方に伝えるという意思が必要なわけですが、日本語教師も最初から話術があるわけではないので、自身が話す日本語の言い方や話し方などの伝え方を磨きます。いわば毎日のように外国人の方と接しているので、伝えたくても伝わらないもどかしい経験を日々重ねているのです。だからこそ、日本語教師はやさしい日本語の伝道師として、その苦労と大切さを一般日本人に伝えることができます。

まとめ

最近では、日本語教育能力検定試験の出題テーマとして、やさしい日本語関連の内容が多くなってきました。また、やさしい日本語を普及させるためにと、全国の自治体などで講演会やセミナーが開催されることが増えてきました。私もそんな伝道師の一人として、講演させてもらうこともありますが、外国人に関心がない人にとってやさしい日本語の関心が薄いのも事実としてあります。正直、今の日本社会はそのような現状です。

私は日本語教師だからでも普及人だからでもなく、単純に日常レベルで外国人の方とコミュニケーションしたいのです。その活用として、やさしい日本語が便利だと感じています。外国人に関心がない人に関心を持ってもらうことも大切ですが、まずは外国人に関心がある人にこそ、やさしい日本語の存在を知ってもらいたいと思っています。

この記事の筆者
勝裕之先生
日本語教師養成講座 講師
勝裕之
養成講座修了後、ベトナム(ホーチミン)で日本語教師デビュー。
複数の日本語学校で計8年勤務し、23年4月からフリーランスとなる。現在は「やさしい日本語」普及連絡会に所属しながら、様々な市町村にて講義・セミナーを実施。また、外国人材受入企業にて「JLPT指導対策講座」や日本語教育における執筆活動など、多方面に活動中。
2023年よりTCJ日本語教師養成講座講師を担当。

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