シャドーイングは効果ある?日本語教育にどのように実施すればよい?

シャドーイングとは?

シャドーイング(Shadowing)、またはスピーチ・シャドーイング(Speech Shadowing)とは、(イヤホンなどで)音声を聞いた後、即座に復唱する実験技術です。私たち日本人にとっては英語学習の際に、英語を聞きながら同時に発音することでリスニング力が鍛えられるというイメージかもしれませんが、日本語学習でも同様です。

日本語学習者は日本語を学ぶ際、教科書などの教材からだけでなく、アニメやドラマなどの動画から興味を持ち、生の日本語音声を聞きながら、その映像シーンのセリフのやりとりを真似して発音したり、日本文化と併せて楽しみながら学習している人も少なくないと思います。

日本語学習における4技能(読む・書く・話す・聞く)の中でも、特に話す技能は相手がいないと口語能力が向上しにくいため、現在の日本語授業の中でも大いに需要がある分野だと思います。

また、モデル会話を聞きながら聴力を伸ばせる、このシャドーイング学習は疑似会話が楽しめる要素もあるため、独学での日本語学習としても効果的です。

シャドーイングの種類

一口にシャドーイングといっても、様々なものがあります。厳密にはシャドーイングではなく、シャドーイングの準備を位置づけられるものもありますが、一度ざっとまとめてみましょう。

➀リピート(シャドーイングの準備①)

 シャドーイングではないが、一文一文を聞き終わるごとに、それを声に出して繰り返す練習。モデル音声を一文程度で一時停止するなどして区切り、スクリプトを見ながら落ち着いてゆっくりと発話する練習

②シンクロ・リーディング(シャドーイングの準備②)

スクリプトを見ながら、聞こえてくるモデル音声とほぼ同時に、「遅れずに」全部声にだして朗読する練習。モデルの音声は通しで流し、遅れずに全部声に出して朗読する。

  一旦➀と②を比較してみましょう。この2つを比較すると「速さに慣れる」という部分に焦点が当てられていることがわかります。このとき、スクリプトを見ながら下線を引くなどして自分がうまく言えない所を可視化するなどしてみてもいいでしょう。文章、あるいはひとまとまりの談話というものは一定のスピードや一定の強さではなく、独特のリズムを持っています。簡単にいうと「緩急」があります。まずは「急」の部分をしっかりと意識づけするということですね。この➀と②の活動は、ある程度レベルの高い学習者であれば、1度モデル音源を聞かせるだけなどして、割愛してもいいでしょう。

 そして、以下よりスクリプトを一切見ない「シャドーイング」を実践していきます。

③サイレント・シャドーイング

スクリプトを見ないで、口元だけを動かし、声にださないシャドーイング。

 発話をしなくていいので、一番気楽にできます。

④マンブリング

スクリプトスクリプトを見ないで、モデル音声を聞きながらぶつぶつとつぶやくように発声する。(音量は自分で調節)自分の発声よりも、聞こえてくるモデル音声に注意を向ける。

 ここで一旦③と④を比較してみましょう。シャドーイングを完璧に実施するためには「大意(発話全体のアウトライン・トップダウン的な理解)」と「文法的な理解(ボトムアップの理解)」そして「音韻論的な正確さ(調音点・調音法、アクセント、リズム、ピッチ etc・・・)全てが要求されます。➀と②の活動で概ね全体像はつかめているのですが、スクリプトを見なくなることでグッとハードルがあがってしまいます。

 まずはサイレント・シャドーイングで心理的負担を緩和し、マンブリングで「聞きながら口を動かす」ことになれていきます。マルチタスクの準備運動とも言えますね。シャドーイングという音源を聴きながら素早く再生することだと思われがちですが、こういった活動もあるんですね。そもそも聴きながら何かをすることが苦手という人はマンブリングだけでも脳トレになっちゃいますね。

 サイレントシャドーイングやマンブリングは発話を構成する難しさを細分化して個別にトレーニングするという着想に基づいており、俗にいう「会話に慣れていない」学習者にとって何が難しいのかを考えさせられる非常に重要な活動とも言えます。

⑤プロソディ・シャドーイング

 スクリプトを見ないで、聞こえてくるモデル音に注意し、正確な発音・アクセント・イントネーションを意識しながら再現する方法。

 いわゆるシャドーイングですね。この活動を実施すると、全体の理解や、文法的理解が曖昧だとモデル音源を素早く再生することができないという「気づき」が得られます。この気づきこそがシャドーイングの醍醐味と言えます。自分が「何がわかっていないのか、できていないのか」を自分自身で気づくことができるんですね。

⑥コンテンツ・シャドーイング

 聞こえてくるモデル音声の意味に注意し、内容を理解(想起)しながら再現するシャドーイング

 このタスクを実施することで「イメージしながら話す」というマルチタスクの練習になります。通常十分に会話能力が発達していない学習者は「イメージする」→「翻訳する」→「発話する」という流れで会話を構成しようとするので、母語話者のようなテンポで会話を組み立てることが難しくなります。そこで「音源のスピードで話す」という縛りをくわえたトレーニングを実施することで「イメージから直で発話」という練習をすることができるわけですね。うーん。よくできていますね!

シャドーイングで期待される効果とは?

英語などでシャドーイングを実際にしてみると体感できるのですが、ただ言っていることを再生するだけなのに、極めて難しいということがわかります。日本人でも高校生くらいまで英語を勉強した人なら、一応どこかで勉強した言葉で9割近くはカバーされている発話内容のはずなのになぜか再生できない・・・。(筆者もその一人です(汗))

 それを上記のように順を追ってトレーニングしていくことで「何ができていないのか」が分かります。正確にはあぶりだされます。様々なレイヤーでこの「気づき」を自分自身で得られることがシャドーイングの究極の醍醐味と言えると思います。

 これは本当に感動的なものです。筆者は「all of them」をかつては文字通りカタカナ調で「オール・オブ・ゼム」と言っていたんですが、シャドーイングをしてみたら「オーブゼ」ぐらいであることに気づいたんですね。省略しすぎでしょ!とか思ったんですが、これは強勢リズムで閉音節で終わってるからどうたらこうたら・・・と音韻論的に考えると確かにそうなるという話ではあるんですが・・・このように理屈で分かってはいても実際にはできないんだという素晴らしい気づきが得られるわけです(笑)

日本語の授業での取り入れ方

独学でもある程度の学習が望めるシャドーイングですが、授業に取り入れるとなると事前の計画や準備が必要になります。聞こえてくる日本語音声に対して後から読み上げるといっても、複数の学習者相手に実施させようと思って実際やってみたら案外難しいものです。

授業で実施するならモデル音声を扱うのではなく、教師自身がモデルになるという方法もありますが、もしそうなった場合、教師の後から読み上げるとなるとタイミングやテンポなどが合わせにくく練習そのものが難しいのです。だからこそ、独学に似合う練習方法というイメージもあるわけですが、シャドーイングを用いた会話授業を実際に行っています。オンラインでの1対1で、口語能力を向上させる目的で実施していますが、そのやり方は実にシンプルです。

教師と学習者が教科書ベースのシャドーイング教材を共有した状態で、まず音声だけ(文章を隠した状態)を学習者に聞かせます。その理由は、音声だけでどの程度内容が理解できるかを測るためです。
その後、文章を見せ、AさんBさんと役割を変えながら教師と学習者が交代で読み上げていき、文章にある語彙や表現の中で分からない言葉があれば説明を入れ、最後は学習者にこの内容に関する感想や意見を聞きながら自由会話に発展させていくのです。つまり、このシャドーイング練習の中で磨かれているのは、「音声だけを聞かせる聴力」と「文章を読ませる発音力」と「内容を理解させる読解力」と「自由に会話させる口語力」が同時に学習できるのです。

その結果、私の授業を受けてくれる教え子たちは、口語能力向上にバラつきはあるものの、日本語が少しでも話せるという自信と話してみようという勇気が備わったことから、今も立派に成長を遂げています。

まとめ

シャドーイングと言ってもさまざまありますが、「気づき」を促すシャドーイングは、授業でも積極的に取り入れたいものです。

この記事の筆者
勝裕之先生
日本語教師養成講座 講師
勝裕之
養成講座修了後、ベトナム(ホーチミン)で日本語教師デビュー。
複数の日本語学校で計8年勤務し、23年4月からフリーランスとなる。現在は「やさしい日本語」普及連絡会に所属しながら、様々な市町村にて講義・セミナーを実施。また、外国人材受入企業にて「JLPT指導対策講座」や日本語教育における執筆活動など、多方面に活動中。
2023年よりTCJ日本語教師養成講座講師を担当。

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