ピア・ラーニングって何?日本語教育現場における活用方法も紹介
概要
この記事では、
「そもそもピア・ラーニングとはなんだろう?」という方や、
「養成講座で聞いたことのある言葉のような気がするけど詳しくは分からない」という方へ、
ピア・ラーニングの意味や、実践例についてまとめました。
用語の意味理解の促進や、実際のクラス活動にお役立ていただけたら嬉しいです。
まず、ピア・ラーニングの言葉の意味についてですが、ここでいうピアは【自分以外の学習者】です。
少人数のグループでお互いに協力しながら、学び合う学習を協働学習といいますが、主に教室内でクラスメート(ピア)たちと相互に行う学習(ラーニング)で、ピア・ラーニングです。
ピア・ラーニングは学習方法のひとつで、学習者同士が協力し課題の解決に取り組んでいく手法です。
そして、教師による一方向の知識の伝達ではなく、学習者それぞれの対話による価値観の融合に重きを置いているという特徴があります。
ピア・ラーニングが生まれた背景
1950年代の学習観は行動心理学の考え方に基づく行動主義的な学習観が一般的で、教師自身の教え方にフォーカスを当てていた時代でした。
その後、学習の主体は学習者という考え方となった1960年代を経て、1980年代に学習者自身の学びを引き出し、より自律的に学べるように支援するという教育観への転換が起こった結果、登場したのがピア・ラーニングです。
ピア・ラーニングが用いられる授業には何がある?
では、実際にピア・ラーニングを使った授業にどのようなものがあるのでしょうか。
1) 会話練習
ピア・ラーニングにおける会話練習は、例えば学習者同士がペアやグループを組み、一つのテーマについて会話を練習します。
もし「旅行」がテーマだとすれば、一人の学習者が旅行先を選び、もう一人がその旅行プランを提案するなどのロールプレイを行います。
2)ディスカッション授業
例えば、「日本の文化と他国の文化の違い」についてグループディスカッションを行い、それぞれの文化背景を持つ学習者が自国の文化を紹介し合い、意見交換を行うことで新たな意見を生み出します。
3)作文の相互添削
ピア・レスポンスと言われる作文の授業では、学習者同士が互いの作文を読み、フィードバックを行います。
例えば学習者が書いたエッセイを他の学習者が読み、文法や表現のミスを指摘したり改善点を提案したりしながら、ブラッシュアップを重ねていきます。
4)読解
ピア・リーディングと呼ばれる読解の授業は、学習者同士が協力して一つの文章を理解する活動です。
個別に要約を作成した後で、他の学習者への共有し相違点など意見を出し合うほか、一つの文章に対し、質問しあうなどの形式で進める方法があります。
5)グループプロジェクト
学習者がグループで一つのプロジェクトに取り組み、成果物を共同で作成していく授業です。
例えば「日本の祭り」がテーマだったとすると、まず日本にある祭りや地域の祭りの調査を行い、発表用の資料を作成、最終的にプレゼンテーションを行います。
ピア・ラーニングの授業を行う際に留意すること
ここで、教師がピア・ラーニングを行うにあたって心がけておくポイントがあります。
1)課題や環境に合わせて柔軟に考える
ピア・ラーニングに「こうでなければならない。」といった型のようなものはありません。
方法や手順はその時々で変わるため、学習者の状況や課題によって教師が活動を考える必要があります。
2)学習者が安心して意見を出せる環境をつくる
様々な国籍、背景で学習しているクラスでは、さまざまな意見が出てくると思います。
その中で、教師は相互に認め合いながら、意見を交換するよう明確に伝えていくことが大切です。
教師としては何とか意見を出してもらいたいと思ってしまいますが、意見をすぐに出せるような学習者ばかりではありません。
意見を伝える段階にいくまでには、自分の意見を認めてもらえる安心感をつくりながら、意見の相違があるのは当然だという環境を整えることも教師の役割だといえます。
ピア・ラーニングのメリット
まずはメリットについてです。
1)疑問をその場で解決できる
一つ目は、消極的な学習者が疑問点をそのままにせず、学習者同士で質問しあうことで解決の糸口が見えることです。
特に中級以上の学習者の中には、基礎的な文法項目で分からないことがあったりしても、「こんな簡単なことを先生に聞くのは恥ずかしい」と思い込んでしまい、疑問点を残したままやり過ごしてしまうこともあるかもしれません。
ピア・ラーニングを用いることで、先生にはなかなか質問しにくいと思っている学習者の疑問が表面化されるという長所があります。
2)思考の育成に役立つ
暗記重視で学習してきた学習者にとって、批判的思考や論理を構築する力をすぐに教師から学び、実践するというのは難しいかもしれません。
しかしピア・ラーニングであれば、学習者同士で意見を出し合いながら、自分とは異なる学習者の考え方(例えばここでは、批判的思考や論理を構築する能力)を学ぶことができます。
3)自分の分からないことに気付く
学習者自身が分かったつもりで、理解不明瞭なことをそのままにしていることがあるかもしれません。
教師からの一方向性の授業では気付けなかった自分の課題に、学習者同士の対話によって【分からないことが分かる】という気付きが得られるというのも、ピア・ラーニングを授業で扱う長所といえます。
ピア・ラーニングのデメリット
一方デメリットとして以下3つ挙げました。
1)学習効果のばらつきが生じる
学習者のレベルや理解度に差がある場合、学習効果に不均衡が生じる可能性があります。内容や進め方によって、簡単すぎると退屈に感じる学習者と、理解が追いつかず焦りや不安に思う学習者の二極化へとつながってしてしまうかもしれません。
2)誤った情報を共有してしまう
学習者同士が互いに教え合う際、間違った情報や不正確な理解が広まるリスクがあります。そのため教師が適切に介入しないと、誤った知識が定着することになってしまうでしょう。
3)学習意欲が低下する
グループプロジェクトの場合、グループ内での役割分担が偏ることがあります。
特に積極的な学習者が多くの作業を引き受け、消極的な学習者が依存する状況が生まれやすく、全員が平等に学習機会を得られないことで、モチベーションが低下してしまいます。
このようにメリットだけでなく、デメリットも理解しながら、教師はクラス活動を通して学習者のサポートを行う必要があるでしょう。
試験には出題される?
令和5年日本語教育能力検定試験記述問題の試験Ⅲ問題17に、ピア・ラーニングが出題されています。
※日本語教員試験(国家試験)は、2024年11月に第1回が実施されます。
記述問題においては、ピア・ラーニングがどのような活動であるかを正確に理解しておかなければならないのはもちろんですが、選択問題においても、ピア・ラーニングは出題されやすいキーワードです。
ただ言葉の意味を覚えるだけでなく、生み出された背景や歴史、どのような活動がピア・ラーニングにあたるのかなどを、きちんと把握しておく必要があります。
まとめ
ピア・ラーニングは単に会話練習や読解の理解に役立つだけではなく、学習者の自主性や協働性を高め、より深い学習を促進する方法として活用されているようです。
日本語教師として、学習者に理解を深めてもらえるよう、自発的な学びを促せるような学習環境を柔軟につくっていきたいものです。
参考文献/引用
ヒューマンアカデミー著(2009)『日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド』
神村 初美(2014)『専門日本語教育にピア・ラーニングを用いる研究 : 大学院の日本語教育専攻における四年間の実践研究を通して』
石黒圭・胡 方方・ 志賀 玲子・田中 啓行・布施 悠子・楊 秀娥(2018)『どうすれば協働学習がうまくいくか: 失敗から学ぶピア・リーディング授業の科学』
公益財団法人日本国際教育支援協会著(2024)『令和5年度 日本語教育能力検定試験 試験問題』