

ロールプレイを使った日本語教育の授業の進め方
概要
語学教育において、ロールプレイは学習者が自分の知り得る語彙・表現を駆使し自己表現ができるという点で、運用力養成には欠かせない活動の一つと言えます。ここでは、ロールプレイによる学習効果と、ロールカード作成における留意点などもご紹介していきます。
ロールプレイとは
ロールカード(指示カード)を使って行う会話練習のこと。カードには場面や課題等が書かれており、学習者は指示に従い役になりきりペアで会話を進めます。相手のカードの内容を探ることで会話が進む仕組みになっています。活動の際、以下の3つの項目がポイントとなります。
1.インフォメーションギャップ
それぞれのカードに、相手の知らない情報(インフォメーション)が含まれていること。その差(ギャップ)を埋めることで会話を進める状況を与えます。
2.選択権
「選択」というと、複数の中から選ぶことと解釈されがちですが、そうではなく、参加者が言葉や話し方等を自由に選択して話せるという意味です。つまり、学習者は与えられた状況下で、自分の日本語能力を総動員して会話をする状況を与えます。
3.フィードバック
自分の発話に対する相手の反応。これを受けて臨機応変に対応し、より自然な言語活動が行えるように練習します。
ロールカード
ロールプレイの要はロールカードです。カードがうまく機能しなければ効果的な会話練習にはなりません。カードには上記3点(インフォメーションギャップ、選択権、フィードバック)がうまく機能するように作成することが求められます。既製品もありますが、授業内容に合わせて教師自身が作成したほうが効果的な活動が期待できます。最初はなかなかうまくいきませんが、作成→実施→作り直しを繰り返すことで会話練習に効果的なカードが作れるようになります。日本語教師を目指す皆さんは、是非カード作成にチャレンジしていただきたいと思います。自作することで、ロールプレイの意義・効果が実感できると思います。
・いいロールカード…インフォメーションギャップがあり、選択権が与えられている
例)
【ロールカードA】
あなたは日本語学校の先生です。
学生の話を聞いてください。
明日は成績に関わる大切なテストがあります。
【ロールカードB】
あなたは日本語学校の学生です。
明日、両親が来日するので空港に迎えに行きたいです。
休みたいので、先生に許可をもらってください。
・悪いロールカード…インフォメーションギャップがなく、細かく発話の指示がある
例)
【ロールカードA】
あなたは日本語学校の先生です。
学生が明日、両親が来日するので空港に迎えに行きたいので、学校を休みたいと言ってきます。
「明日は大事なテストがあるので、休んではいけません」と言ってください。
また、何時に空港に行かなければならないか聞き、テストを受けてから行くようにアドバイスを
してください。
【ロールカードB】
あなたは日本学校の学生です。
明日、両親が来日するので空港に迎えに行きたいです。空港には15時に着きます。
先生に、「明日は両親が日本にくるので、空港まで迎えに行きたいです。
明日の授業を欠席してもいいですか」と言って、許可をもらってください。
(筆者作成)
ロールプレイのメリット・デメリット
メリット
・学習者が自身の言葉で会話ができる(しなければならない)
・よりリアルな会話が体験できる
・トピックが決まっているため、話しやすい
デメリット
・トピックが設定されてしまうため、制限がかかった会話になってしまう
・相手によってはうまく会話が進まない場合もある
また、学習者のタイプによっては、これらのメリット・デメリットが様々な形であらわれます。
・場依存型(正確さは重要ではなく、直感で理解しその場に対応できる)の学習者:
どんなトピックにも柔軟に且つ即座に対応し、会話をふくらませることができます。自由度が高ければ高いほど(選択権)生き生きとした活動になります。
・場独立型(分析的・論理的に考え、文法・規則性など正確さを重んじる)の学習者:
文法規則や語彙選択に意識がいくので、なかなかテンポのいい会話にはつながりません。彼らにとっては、上記のメリットはデメリットになり得るかもしれません。
授業での導入方法
1.文型練習として活用する
初級段階であっても、ロールプレイを会話練習に組み込むことは可能です。その場合、導入→練習をしっかり行ったうえで、活動として当該文型を使ってできる会話場面を設定してカードを使用します。
例)可能形
【ロールカードA】
あなたはキャンプ場を経営しています。
シートを見て、Bさんの面接をしてください。
(シート項目:できること(川で泳ぐ、パソコン、車の運転、日曜日働く…【〇✖記入])
【ロールカードB】
あなたはキャンプ場で働きたいと思っています。
面接を受けてください。
『日本語初級➁大地』L24より引用
2.場面シラバス・機能シラバスとして活用する
まず、しっかりとスキーマを作ります。学習者からこの場面、この状況でどんな表現が使えるか、どう振る舞うかなど引き出しておくと活動に入りやすいです。
スキーマ作り
例)「断る」(機能シラバス)
1.友達が映画に誘ってきた場合、どうやって断る?
2.先輩や上司の誘いはどうやって断る?
※行きたいけど用事がある場合/本当に行きたくない場合…両方考えてみよう
3.あなたの国と日本、断り方の違いはある?
ロールプレイを行う上での留意点
1.学習者のタイプに応じた対応
ロールプレイと限らず、選択権やフィードバックが求められる活動は場依存型の学習者にとっては得意分野であり、場独立型の学習者には苦手分野となります。本来ならこの両者を組ませることでお互い学びもあると思いますが、一方で大きなストレスを与えてしまうことにもなりかねません。ペアを組む際は、学習者の特性にも留意が必要です。
2.真正性のある場面設定
「実際にこんな場面って、よくあるよね」と思わせるような場面設定が望ましいです。日本語学校が主な活動場所になってしまっている学習者も多いですから、日本での生活の中で、日本人と接する際にありそうな場面で、予行演習になるような活動ができるといいですね。
3.ゴールを決めない
カードの指示をどう解釈するかは学習者次第です。期待する着地点を設定せず、自由に会話をさせましょう。意外なゴールを導くペアもいます。わざと爆笑をとるためにお互いに競い合いながら会話を続けるペアもおり、こういう場合は会話が弾みとてもいい活動になります。
4.ファシリテーターとしての役割
全ての学習者が指示カード通りに上手にできるとは限りません。教師は常に机間巡視し、活発な活動ができていないペアに対してはヒントを与え、会話を進める手助けをしましょう。
5.カードの不備
教師が自作のカードを使って活動をする場合もあると思います。前述の通り、活動に有用なカードの作成は簡単なことではありません。自分は完璧だと思って作成したものでも、実際に使ってみるとそうでもない場合が多いです。事前に教師同士、またはご家族、ご友人に付き合ってもらってロールプレイをやってみることをオススメします。ノリノリで付き合ってくれるご主人のお話もよく聞きます(笑)。
まとめ
今回は、ロールプレイを使った日本語授業についてご紹介いたしました。ロールプレイは学習者の日本語力をフル活用して取り組む活動なので、運用力養成には効果が高いと言えます。一方で、教師の指導方法が間違っていたり、上手く機能しないカードを使用したりすると効果は上がりません。行う際には、今回ご紹介した留意点に気を配って行っていただきたいと思います。
参考資料として、レベルに応じたロールプレイ教材をご紹介しておきます。これはほんの一例にすぎません。是非、使いやすい教科書をご自身で探してみてください。
参考資料
初級向け『日本語初級 大地』(スリーエーネットワーク)
中上級向け『ロールプレイで学ぶ中級から上級への日本語会話』(凡人社)
ビジネス日本語向け『ロールプレイで学ぶビジネス日本語(初中級~上級)』(スリーエーネットワーク)

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