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助数詞は日本語だけ? 広がる助数詞の世界!

目次

助数詞とはなにか?

私たち日本語話者はものを数える時、卵だったら「1個、2個、3個」、鉛筆だったら「1本、2本、3本」、お皿だったら「1枚、2枚、3枚」と数えます。このとき、数字のあとにくる「~個」「~本」「~枚」を助数詞といいます。

助数詞は私たちの言語生活と切っても切れない関係にあります。まず、私たちは助数詞なしではものを数えることができません。これは当たり前のように思えますが、英語などのように、助数詞を用いず「1、2、3」の数詞だけで十分な言語もたくさんあります。

また、なにをどう数えるかによって、どの助数詞を用いるかが決まる、というのも重要です。「卵1個」と「卵1箱」では大きな違いですし、「卵1枚」だったら目玉焼きが来てしまうかもしれません。

こんな大事な助数詞について、この記事では、日本語教育の観点からまとめます。

助数詞の種類

助数詞はなにを数えるかによって変わります。その基準のもっとも重要なものは、人間か人間ではないかの区別です。「ひとり、ふたり」は人間を数えるときだけに用いられます。「1名、2名」もそうです。これは私たちにとって人間であるということが大事だからでしょう。

次に生物を数える助数詞があります。犬・猫・虫・魚などを数えるときの「匹」、牛や馬などを数えるときの「頭」、鳥類やウサギの「羽」などがあります。これらははっきりと区別されているわけではなく、犬の場合は「匹」と「頭」のどちらでも使うようです。象は「1頭」ですが、文脈によっては「1匹」でもよさそうです。

人間も生物も命があるという点では、同じグループに属しています。命があるかないかの区別を有生性といいますが、人間も生物もともに有生物です。

有生物に対するのが、無生物、つまり命のない存在です。無生物の助数詞は、形状や機能によって決まります。まずは無生物を数えるのに広く用いられる「つ」と「個」があります。さらに、細長い物なら「本」、平たい物なら「枚」、それらの集合体なら「束」です。また本やノートは「冊」、自動車などの機械類は「台」です。

これらに加えて、量を計るときに用いられる助数詞もあります。「1キロ、1メートル」などです。単位をあらわすこうした助数詞には、「1バイト」「1ギガ」など新しいものもあります。

人間か人間でないか、命があるかないか、形状や機能など、助数詞には私たちが世界をどのように捉えているかが反映されています。愛犬家の中には、犬を「ひとり、ふたり」で数える方もいますが、こんな「格上げ」が起こるのも、個々人によって世界の認知や関心が異なるからだといえます。

助数詞の文法的特徴

ここでは、助数詞の文法的特徴のいくつかについてまとめましょう。

助数詞は接尾辞

助数詞は単独では用いられず、つねに数詞の後にくっついています。「ひとつ、ふたつ」の「つ」がその典型です。「1本、2本」の「本」は単独で使われそうですが、それは書籍の「本」のことで、助数詞としての「本」とは別の語です。このように、ある語の後ろにくっつき、単独では用いられない語のことを、接尾辞といいます。

異形態があることも

接尾辞には同じ意味でも形が違うものがあります。こうした形の違いを異形態といいますが、助数詞にも異形態があります。「本」を見てみましょう。

いっぽん、にほん、さんぼん、よんほん、ごほん、ろっぽん、ななほん、きゅうほん

おなじ「本」でも「ほん」「ぼん」「ぽん」の3種類がありますね。これらはすべて異形態です。他にも「匹(ひき、びき、ぴき)」「品(ひん、ぴん)」などがあります。

文法的役割もさまざま

数詞と助数詞が結合した語(たとえば、「3枚」や「6台」など)は、「3個のみかんを買う」のように名詞修飾語として、あるいは「みかんを3個買う」のように副詞的に使われるのが一般的です。ですが、名詞としての用法もあります(「みかん3個を買う」)。また特殊な例ですが、「みかんの3個でももっていきなさい」「日本のリーダーの100人」「今月の1冊」のように単独で使われることもあります。

世界の類別詞

助数詞は日本語だけではなく、他の言語にもあります。助数詞というのは日本語学の用語で、一般的には「類別詞」といいます。日本語のようにつねに数詞とともに現れる類別詞を「数詞類別詞」といいます。

類別詞は、中国語、韓国語、ベトナム語、タイ語、ビルマ語などアジア地域の言語に多く見られます。中国語やベトナム語では、類別詞は数詞とだけではなく指示詞とともにも用いられ、これが日本語と大きく違う点です。また、アメリカ先住民の言語などには、動詞の対象となる名詞の性質によって動詞の形が異なる「類別動詞」もあるそうです。

上で「英語は助数詞を用いない」と書きましたが、「a sheet of paper(1枚の紙)」の sheet や「two ears of corn(トウモロコシ2本)」の ear などは助数詞の機能を果たしています。

「類別詞」というのは、名詞類を種類分けするということです。つまり、私たちは類別詞を通してさまざまな名詞をカテゴリー化しているということになります。同じような名詞のカテゴリー化文法性(ジェンダー)があります。ヨーロッパ諸語に見られる「男性名詞、女性名詞、中性名詞」が文法性の代表的なものですが、アフリカのバントゥ諸語などではより複雑な文法性があるとのことです。

類別詞と文法性は従来は別の現象と考えられていました。ですが、最近の研究では程度の違いだけで別のものではないのではないかという議論もなされているようです。

日本語教育における助数詞

日本語母語話者もときにはなんの助数詞を使ったらいいかわからなくなることがあるくらいですから、学習者にとって大変なのはいうまでもありません。

なによりも名詞ごとに助数詞が異なり、覚えなくてはいけないということも大変です。また、とくに基本の助数詞には「いっぽん、さんぼん」のように「撥音(ん)」「促音(っ)」が含まれることが多く、発音の指導も重要です。

日本語には「ひとつ、ふたつ、みっつ」という和語の数え方と、「いち、に、さん」という漢語由来の数え方がありますが、和語の助数詞には和語の数詞(ただし3以降はほぼ漢語)、漢語の助数詞には漢語の数詞が結びつくのが基本です。この区別も難しいところです。

ただし、日常生活で頻出する助数詞はそれほど多くはありません。買い物や注文などの場面に応じて必要な助数詞を提示するのがよいのではないかと思います。

なお、日本語学習者の多い言語(中国語、ベトナム語、韓国語)には類別詞がありますから、日本語の助数詞は難しくはないかもしれません。ですが、中国語では書籍の類別詞が「本」であるのに対して、日本語は「冊」である、などの語彙的な違いがあるのには注意が必要です。

試験に出そうな助数詞のポイント

助数詞が接尾辞であること、そして数詞と助数詞の組み合わせが名詞修飾語となったり、副詞となったり、名詞となったりすることは頭に入れておいたほうがいいでしょう。

また、「ひとくみ(ペア)」と「いちくみ(学級)」のように音読み訓読みで意味が異なる熟語を見分けたり、和語の数詞と結びつく助数詞と、漢語の助数詞と結びつく助数詞を判別したりする問題が出題される可能性もあります。

まとめ

この記事では助数詞についてまとめました。なにげなく使っている助数詞ですが、実は私たちが世界をどう捉えているかが反映されており、興味深い現象といえます。

ところで、今話題の AI はどう数えたらいいのか、気になって AI に尋ねてみました。答えは「実体ではなく概念なのでひとつ、ふたつと数えます」というものでした。「ひとり、ふたり」でなくてひとまず安心しましたが、もしかしたら、このまますます AI が強力になり、私たちの世界の見方が変わったら、そんな時代が来るかもしれませんね。

参考文献

亀井孝他編『言語学大辞典第6巻 術語編』(三省堂、1996)
森山卓郎他編『明解日本語学辞典』(三省堂、2020)

この記事の筆者
熊切先生の写真
日本語教師養成講座 非常勤講師
熊切拓
いろいろな言語に興味をもち、勉強をはじめる。日本語教師養成講座を担当したのをきっかけに日本語教育にも関わるように。日本語学校や大学で、初級から上級の指導、JLPT 対策講座、クラス担任などを経験。現在、言語学を勉強中。

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