外国語副作用とは。日本語学習者にも当てはまる?
この記事では、日本語教員試験対策としてはもちろん、日本語教師として多くの学生の成長に関わり続ける上で、ぜひ心に留めておきたい重要なキーワード「外国語副作用」について取り上げます。
「外国語副作用」とは何か?
みなさんは「外国語副作用(Foreign Language Side Effects)」という言葉を耳にしたことがありますか。私は日本語教師養成講座を受講していた頃に、この言葉に初めて出会いましたが、病院や薬局で聞く「副作用」という医療用語に、畑違いの「外国語」という要素が組み合わさったどこかミスマッチな言葉に、インパクトを受けたことを覚えています。
「外国語副作用」とは、母語ではない不慣れな言語を使用している際に、通常よりも認知能力や思考力が低下してしまう現象を指します。これは「単語がすぐに出てこない」「文法がおかしくなる」といった表面的な言語処理能力の問題ではなく、もっと根本的な「考える力」そのものに影響が及ぶ現象を言います。
私は日本で生まれ育ち、30代後半でスペイン語学習をゼロからスタートさせ、40歳を迎えるタイミングでスペインに移住しました。現在は日本語教師として現地の語学学校で教壇に立つかたわら、日常生活でもスペイン語を用いて生活しています。その過程で、私はまさにこの 「外国語副作用」 に、何度も悩まされてきました。私が実際に体験した「外国語副作用」は、例えば次のような現象です。
・相手の話すことを理解しようと集中していると、いざ話すタイミングで、ごく簡単な言葉ですら出てこない。
・音声を聞きながらメモを取るなど、母語でなら無理なくできることが、うまくできない。
・話を聞いて理解はできるのに、内容が記憶に残っていない。
・外国語で必死に考えているときは、物忘れをしたり、ケアレスミスが増える。
外国語のみの環境で生活されたことのある方は「自分も経験がある!」と共感されたかもしれませんね。
また私の場合、スペイン語がある程度話せるようになった今でも、たくさん頭を使っているときは、ときおり驚くほど初歩的な間違いをしてしまったり、急に思考力が低下してしまう感覚に陥ることがあり、そんなときはまるで自分が子どもに戻ってしまったような、あるいは年齢を一気に重ねたような、そんな感覚になることも少なくありません。
なぜ「外国語副作用」は起きるのか
では、なぜこのような現象が起こるのでしょうか。私たちが母語を使うとき、その言語運用は自動化されており、ほとんど無意識的に行われています。 つまり、母語使用時には、私たちの脳には余裕があり、他の作業や思考にリソースを回せるのです。
一方、不慣れな外国語を使用しているとき、脳は必死に言語処理にエネルギーを注いでいます。そのため、本来であれば記憶や注意力に使えるはずのエネルギーが消耗され、結果として認知機能全般が一時的に低下するのです。
この状態は、車の運転に例えるとわかりやすいでしょう。運転免許を取りたての頃は、ハンドル操作や安全確認で頭がいっぱいになり、周囲の景色など目に入る余裕はありません。しかし、慣れてくれば会話をしながらでも運転ができますし、道路沿いにできた新しいお店にも気づくことができるでしょう。
言語習得もこれと同様です。使い慣れた言語ならマルチタスクが可能でも、学習中の外国語ではそうはいかない。それが「外国語副作用」の根幹にあるメカニズムです。
日本語教育の現場における「外国語副作用」への理解と対策
もちろん、日本語教育の現場でも、多くの学習者がこの 「外国語副作用」 に直面しています。教師として、その実態を理解し、適切に対処する姿勢が求められます。
・外国語副作用を理解し、受け入れる
例えば初級クラスで、「がっこう」と書くべきところを、学習者が濁点なしで「かっこう」と書いていたとき、みなさんはその間違いをどう捉えますか。ともすると「既に教えた初歩的な内容なのに…」と考えがちですが、その誤りが言語知識の欠如によるものなのか、それとも「外国語副作用」によるものなのか、慎重に見極める必要があるでしょう。
これは、私たち教師自身が外国語習得の過程を経験していれば、理解・共感できるはずです。誤用は恥ずべきことではなく、学習過程において自然に起こる現象です。まずはその前提をしっかり持つようにしましょう。
・安心できる学習環境づくり
外国語副作用は、心理的なストレスによって悪化することがあります。不安や緊張は脳のリソースを奪い、本来集中すべき言語処理を妨げてしまいます。教師として心がけたいのは、学習者が安心して発言できる環境づくりです。たとえば、次のような工夫が考えられます。
・モデル提示をしっかり行い、学習者が何をすれば良いか、迷わないようにする。
・口頭での指示だけでなく、視覚情報(板書・スライド等)も併用する。
・学習者の個人差を理解し、それぞれに適切な問いを投げかける。
「みんなの前で間違えたらどうしよう」という恐怖を取り除くだけでも、学習効率を大きく向上させることができるでしょう。
・マルチタスクを回避する指導設計
外国語副作用において、マルチタスクは最大の敵です。ここで教師が特に気をつけたいのが、無意識に課しているマルチタスクです。「聞きながらメモを取る」のようなタスクは、マルチタスクとしてわかりやすいのですが、実は教室でよくありがちな次のような場面でも、実は学習者にとっては「マルチタスク」となっている可能性があります。
・教師の話がよく脱線する。
→本題を頭に留めつつ、別の話題を理解するのにはエネルギーが必要。
・教師の作業指示が曖昧。
→作業とタスクそのもの、2つを考えなければいけない。
・遅刻者がいる、教室環境がうるさいなど、集中できない要素がある。
→他のことを同時に考えなければいけない。
もちろん、私たちの日常はマルチタスクですし、同時に複数のことを処理する力を伸ばすことも最終的には求められるでしょう。ですが、日本語にまだまだ慣れていない初級レベルの学習者にとっては、このような環境で学習に集中するのは困難です。授業に集中できる環境を用意し、シンプルかつ一貫性をもった指導を行うことが重要です。
・最終目標は「自動化」
外国語副作用を乗り越えるために、最終的に目指すべきは、言語運用の自動化です。つまり、考えなくても反射的に言葉が出てくる状態を作ることです。このためには、以下のような積み重ねが不可欠です。
1. 理解(意味・用法をしっかり把握する)
2. 反復(正しく理解した内容を、繰り返し練習する)
3. 実践(実際の使用場面で、運用する)
言語運用の自動化は、一朝一夕で叶えられるものではありません。しかし、この地道なステップをコツコツこなすことで、いつの日か「外国語副作用」に悩むことなく、日本語を自然に使えるようになる日が来るはずです。教師としては反復練習や実践の場面を意識的に作り出し、焦ることなく長い目で指導していきましょう。
まとめ
私たち日本語教師は、学習者の誤用を見ると、それこそ反射的に訂正をしてしまうものですが、ほんの少し立ち止まって「外国語副作用」について考えてみると、学習者や自分自身の指導について、新たに何か気づくことがあるかもしれません。「外国語副作用」は、第二言語習得におけるごく自然な現象です。現場での指導に「外国語副作用」という視点を取り入れることで、より人間味のある温かな学びを提供できるかもしれませんね。この記事がみなさんの現場での指導のお役に立てれば幸いです。
参考
高野陽太郎・柳生崇志・岸本幸一(2003)「外国語副作用-言語処理を伴う思考の場合-」日本認知心理学会第1回大会ポスター発表
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