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学習ストラテジーで日本語学習をより楽しく効果的に!

目次

学習ストラテジーとは?

「日本語教師に興味があるけど、そもそも語学の授業にいい思い出がないし、自分には無理かな……」なんて諦めムードの方がいたら、ちょっとお待ちください。もしかしたらそういう方こそ教師として活躍できるかもしれません。

昔は語学学習というと、まずは文法と単語を覚えることから、というものでした。これで語学がイヤになった人もきっといたことでしょう。ですが、現在の語学学習は大きく変わりました。どのように変わったかというと、おおざっぱにいえば、教師中心から学習者中心へ、という変化です。

学習者中心というのは、言語学習の主役は教師ではなくて学習者だということです。ですので、授業では、学習者はただ教師の話を聞いて終わりというのではありません。自分で課題を見つけ解決するという主体的な学びが重視されています。こうした主体的な学習者のことを「自律的な学習者」といいます。

では、この自律的な学習者になるためにはどうしたらいいのでしょうか。言語学習に関する研究は第二言語習得研究と呼ばれていますが、この研究分野では自律的学習者に関するさまざまな見解・手法が提案されています。そのうちもっとも知られているもののひとつが、学習ストラテジー(言語学習ストラテジー)です。

学習ストラテジーは、レベッカ・L.・オックスフォードの研究が有名ですが、それによれば「学習ストラテジーとは、学習をより易しく、より早く、より楽しく、より自主的に、より効果的にし、かつ新しい状況に素早く対処するために学習者が取る具体的な行動」だとのことです。

より易しく、より早く、より楽しく……」 こんな語学学習だったら、楽しい思い出ばかりかもしれませんね。ではこの学習ストラテジーについて詳しく見ていきましょう!

言語学習ストラテジー・システム

さて、この学習ストラテジーの「具体的な行動」には、どのようなものがあるのでしょうか。レベッカ・L.・オックスフォードの『言語学習ストラテジー ——外国語教師が知っておかなければならないこと』(1994、凡人社)で提示されている「言語学習ストラテジー・システム」によれば、2 部類 6 種類 19 種 62 の項目があるとのことです。ぜんぶ合わせればなんと 89 個です。

「89 個も覚えるの? 学習ストラテジーを学習するための学習ストラテジーが必要じゃない?」なんて声が聞こえてきそうですが、頭に入れておくべきは 2 部類 6 種類、あわせて 8  つ、これで十分です。

そこで、この 2 部類 6 種類の内容について見ていきましょう(なお、以下のカギカッコ内はすべて『言語学習ストラテジー』からの引用です)。

直接ストラテジー

まず、学習ストラテジーは直接ストラテジー間接ストラテジーの 2 部類に分かれます。

直接ストラテジーとは、習得を目指している言語、すなわち目標言語の学習に直接かかわるストラテジーです。いっぽう、間接ストラテジーは言語学習を間接的に支えるストラテジーです。

直接ストラテジーは、目標言語の文法や語彙を覚えたり、理解したり、学んだことを活用したりするために活用されます。これは大きく記憶・認知・補償という 3 つの種類のストラテジーに分けられます。

①記憶ストラテジー

記憶ストラテジーとは、よりよく効率的に記憶するための記憶術です。このストラテジーで大事なのは、なにごとも有機的に結びつけて覚えることです。さまざまな記憶術が提案されていますが、主なものを挙げると、グループ分けしたり、連想関係で結びつけたり、イメージを活用したり、身体動作と結びつけたり、などです。

②認知ストラテジー

認知ストラテジーは目標言語をよりよく理解するためのストラテジーです。私たちは目標言語を理解しようとするとき、文型を練習したり、読解や聴解に取り組んだり、文法規則を推測したり、ノートを作ったり、教科書に線を引いたりしますが、これらはみな認知ストラテジーです。

③補償ストラテジー

目標言語で書かれた文章や発話に触れるとき、意味のわからない単語や表現に出会うことがありますね。そうしたとき私たちは持てる知識や経験を総動員して推測をします。

また、目標言語で話しているときに、単語や表現がわからなくて行き詰まってしまうこともあるかと思います。そうしたとき私たちは、別の言い回しを考えたり、身振り手振りを使ったり、相手に助けてもらったりして、なんとか切り抜けようとします。

このように、「学習者が外国語を理解したり、発話したりする際に、足りない知識を補うために使う」ストラテジーが補償ストラテジーです。

間接ストラテジー

直接ストラテジーが目標言語そのものに関係するのに対して、間接ストラテジーは言語学習を支えるストラテジーです。これも、さらにメタ認知・情意・社会的ストラテジーという 3 つの種類に分けられます。

①メタ認知ストラテジー

ただやみくもに勉強したり、人に言われるままに学習するのではなく、自分の学習をどうしたいかについて自ら考え、学習の計画を立てたり、目標を設定したり、自己評価したりするのがメタ認知ストラテジーです。

②情意ストラテジー

言語学習においてやる気はもちろん大事です。また、不安や心配事あって勉強が手につかないようでも困ります。情意ストラテジーは、不安を軽減したり、自分を鼓舞したりして、ポジティブな気分で学習に臨めるようにするストラテジーです。

③社会的ストラテジー

言語学習は他人を巻き込むこと」であり、そのためのストラテジーが社会的ストラテジーです。このストラテジーには、質問したり、他の人々と協力したり、相手を理解したりする活動が含まれます。

学習ストラテジーと教師の役割

学習ストラテジーは、学習者が自律的に楽しく学ぶために大いに活用すべきですが、その結果、学習者が自分で学べるようになったら、教師は必要でしょうか。

もちろん必要ありません。ですが、学習者が学習ストラテジーを活用できるようになるためには教師は必要です。教師の役割は、学習者の状況や個性を見極め、その「学習ストラテジーを明らかにし、学習ストラテジーの訓練を行い、学習者の自律をたすけること」なのです。

まとめ

この記事で触れた学習ストラテジーをまとめると以下の表のようになります。この記事では扱うことができませんでしたが、『言語学習ストラテジー』には楽しそうな活動例がたくさん載っています。ぜひ実際に本をご覧ください。

さて、冒頭で触れましたが「語学の授業にいい思い出がないので日本語教師に向いていないのでは」だなんて心配無用です。ぜひとも、学習ストラテジーとご自分の経験を活かして、学習者にとっていい思い出になるような授業ができる、そんな日本語教師になってください!

参考文献

『言語学習ストラテジー―外国語教師が知っておかなければならないこと』レベッカ・L.・オックスフォード、凡人社

この記事の筆者
熊切先生の写真
日本語教員養成講座 非常勤講師
熊切拓
いろいろな言語に興味をもち、勉強をはじめる。日本語教員養成講座を担当したのをきっかけに日本語教育にも関わるように。日本語学校や大学で、初級から上級の指導、JLPT 対策講座、クラス担任などを経験。現在、言語学を勉強中。

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