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日本語の変音について

目次

概要

前後の結びつきによって音が変化する「変音」。日本語には、「雨(あめ)」+「傘(かさ)」=「雨傘(あまがさ)」のように、二つ以上の語がくっついた際に音が変わる現象があります。この記事では、「変音」について、その種類と音の変化の仕方について解説します。音声や語形成と関連する重要な分野ですので、ぜひ最後まで読んでお役立てください。

変音-同じ漢字なのに読み方が違う?

これを書いている今、東京は梅雨の時期なのですが、私は毎年傘を忘れる日があります。

つい先日も雨の予報だと言うのに折り畳み傘を持たずに家を出てしまい、友人に苦笑いされてしまいました。

 

雨と言えば、よくこんな会話を聞きます。

 

が降ってきたから、ちょっとあそこの店に入って宿りしよう。」

 

、持ってる?」

「うん、折り畳み、持ってるよ。」

 

なぜ突然雨の話から始めたかというと、雨の話がしたかった・・からではなく、漢字の読み方の部分にご注目いただきたかったのです。

上の会話をお読みいただくと、「あめ」「あまやどり」「かさ」「おりたたみがさ」

「雨」「傘」の部分の読み方が、それぞれ1つ目と2つ目で異なっています。

「雨」は「あめ」「あま」、「傘」は「かさ」「がさ」。これらは音読み訓読みの違いではありませんね。

 

日本語では、同じ意味の語でも、その前後に来る音によって発音が変化することがあります。

日本語教育能力試験でも、こうした音の変化の問題はたびたび出題されています。種類が色々とあるためそれぞれの違いや例を整理しておく必要があります。

今回はそんな日本語の音の変化の種類について、紹介していきます。

変音とは

二つ以上の言葉が合わさってできる「複合語」などで、音が変わる現象があります。

例えば、

皮(かわ)+財布(さいふ)→皮財布(かわいふ)

雨(あめ)+靴(くつ)→雨靴(あまつ)など。

風(かぜ)+車(くるま)→風車(かざるま)

これを総称して「変音」と言います。

変音にはいろいろな種類がありますが、次からそれぞれの違いを見ていきましょう。

連濁(れんだく)とは

複合語の中で、後ろに続く語の頭が濁音化する現象です。

例えば「雨(あめ)」と「靴(くつ)」はそれぞれ独立した意味を持つ語ですが、これらを合わせて一つの語にすると「雨靴(あまつ)」となります。

 

この、「くつ」→「ぐつ」のように濁音になるものが連濁です。(「あま」の部分は次に紹介する「転音」にあたります。)

その他の例としては、

上の例でも挙げた「折り畳み傘(かさ→さ)」

「本棚(たな→な)」

「上り坂(さか→か)」

「洗濯ばさみ(はさみ→さみ)」などがあります。

転音(てんおん)とは

転音とは、上に挙げた「雨靴」の「あま」のように、母音が本来の音とは異なる音に変化する現象のことを言います。別の言い方で「母音交替」とも呼ばれています。

他の例:

「風車」かぐるま→かぐるま([e]→[a])

「船酔い」ふよい→ふよい([e]→[a])

「稲穂」いほ→いほ([e]→[a])

「酒蔵」さぐら→さぐら([e]→[a])

「爪先」つさき→つさき([e]→[a])

など。

音便(おんびん)とは

「音便化」は平安時代に起きた活用語尾の音の変化で、イ音便・ウ音便・撥音便・促音便の4種類があります。国語や古典の時間に勉強した方もいるのではないでしょうか。

 

撥音便

「み・び・に」が、撥音「ん」に変化します。

遊びて→遊んで

読みて→読んで

 

促音便

「い(古語では「ひ」)・ち・り」が促音「っ」に変化します。

取りて→取って

酔ひて→酔って

 

イ音便

「き」が「い」に変化します。

書きて→書いて

聞きて→聞いて

イ音便は語尾にも表れます。

例:「優しき人」→優しい人

名詞の前や文末でも、音便化することがあります。

 

ウ音便

イ段の音がウ段の音になる

早く→はよう

よろしく→よろしゅう

よく→よう

うれしく→うれしゅう

 

こうした音便は、現代の日本語の動詞の中にも残っており、例えば一部の地域では「うれしゅうございます」などの言い方が使われています。

 

音便については、「動詞の活用」の記事もご参考ください。

音韻添加(おんいんてんか)とは

複合語の後ろの語の頭に、元々ない音が入りこむ現象です。

「小雨(こめ)」→本来の[ko][ame]の間に[s]が挿入されています。

例は多くありませんが、同様に「春雨(はるさめ)」なども[s]が入っていますね。

音韻脱落(おんいんだつらく)とは

音の一部がなくなる現象を「音韻脱落」といいます。

例えば、

なにか[nanika]→なんか[nanka]

母音の[i]がなくなっています。

音韻融合(おんいんゆうごう)とは

前の語の最後の音と、後ろの語の始めの音が混ざる現象を「音韻融合」といいます。

単語だけでなく、助詞との接続時にも起こりえます。

(例)

素人(しろひと→しろうと)

これは→こりゃ

わたしは→わたしゃ

など。

連声(れんじょう)とは

前部の最後の子音が、後部の最初の音にくっついて発音されるような場合を「連声」といいます。

これは具体的には、前の語の最後の音が[m][n][t]、後ろの語の始めの音が「ア行」「ワ行」「ヤ行」になっているときに、「マ行」「ナ行」「タ行」に変化するものです。

(例)

「反応(はんのう)」

「銀杏(ぎんなん)」

「因縁(いんねん)」

「尊王(そんのう)」

「三位(さんみ)」など。

半濁音化(はんだくおんか)とは

半濁音化とは「は行」の音が「ぱ行(半濁音)」に変化することを指します。

頓服(とんく)

漢方(かんう)

寒波(かん

三泊(さんく)

四分間(よんんかん)

六分間(ろっんかん)

一杯(いっい)

発表(はっょう)

 

こちらでは深く扱いませんが、「入声音(フ/ツ/ク/チ/キ)」や鼻音([m],[n]など)のあとに来る音が半濁音[p]になる傾向があるようです。

 

漢字の教科書などでは読み方のバリエーションとして初めから「分=ふん、ぷん、ぶん」などと書かれていますが、実際に使い分けが定着するのには時間がかかることが多いです。

 

初級では、3分、6分、1杯・・など、いろいろな助数詞とその読み方を学習します。

「いっぷん」「にふん」「さんぷん」のように、数字によって後ろの助数詞が清音・濁音・半濁音と分かれるので、学習者にとっては覚えにくい項目のひとつです。

 

よく「どうしてこんなに読み方があるの?」と言われますが、その背景にはこの「変音」があったのですね。

まとめ

いかがでしたでしょうか。ここでは変音の中でもよく出てくる代表的なものを挙げて解説してきました。

日本語を勉強している人にとって、変音が起きている語の音を聞いて、意味をすぐに想像するのは難しいもの。「かさ」「がさ」のように、漢字が同じでも音がちがえば、同じ意味だとは気づかないこともあります。教師は、こうした音変化について質問があった際スムーズに答えられるように、変音のルールや種類ついて理解し、例を挙げられるようにしておきましょう。

 

冒頭では梅雨の最中でしたが、書いているうちに日がたち、この記事が皆さんの目に触れるころには「雨傘」・・ではなく、「日傘」が必要になりそうです。

それはそうと英語では、日傘のことを「サンブレラ」と言うそう。「日+傘」のように、複数の語を組み合わせて新しい言葉を作ることができるのは、他の言語でも同じようです。

教師も、日々ことばの引き出しを増やしておきたいものですね。

 

参考

『日本語教育能力検定試験50音順用語集』(2013)ヒューマンアカデミー、翔泳社

岩田一成、大関浩美、篠崎大司、世良時子、本田弘之『日本語教育能力検定試験に合格するための用語集』(2012)、株式会社アルク

池田悠子、特定非営利活動法人国際日本語研修協会監修『やさしい日本語指導5 音韻/音声』(2000)、アークアカデミー

この記事の筆者
TCJ・コラム執筆者写真
TCJ日本語講座 非常勤講師
大野 綾香
大学で日本語教育を学んだのち、日本語教育能力試験に合格。日本語学校で留学生の大学受験指導・プライベートレッスン、教材出版等を経験後、2023年よりTCJにて留学コース・ビジネスパーソンのプライベートレッスンを担当。好きな分野は地域日本語教育、音声学。

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