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日本語初心者にひらがなの指導をするには? 書き取り練習?

目次

概要

文字を覚えるとはそもそもどういうことか。このようなことを考えたことがあるでしょうか。学校教育で習うものですが、体系的に教えてもらったという記憶が曖昧ではないでしょうか。字を自然に習得し、いつのまにか覚え、自分なりに規則性を見つけて獲得して来ました。そのため、「字を教える」ということを明確に説明できるは人なかなかいないと思います。日本語教師になっても字の教え方ってどうなっているの?となりがちです。字を教えるためのスキルやノウハウ、教材などがあふれています。それが字を覚えるということの一連の流れの、どのような位置づけにあるのかをまとめていきたいと思います。

 

 

文字の教え方を書く前に

次のようにどのタイミングで字を導入するか、という問題もあります。①字を覚えてから日本語の勉強をする。②ローマ字を使って並行して日本語を教える。「とにかく日本語の会話をしたい!」という人に対していきなり文字から教えるというのは、要望に沿えていないということにもなります。どのように導入していくのか、そもそもの組み立てを考える必要があります。これが決まっているという前提で今日のテーマを書き進めていこうと思います。

文字を覚える必要がないと思っている人にも、字を覚えるって楽しい!と思ってもらえるようにコースデザインすることが大切です。身近なものから、これは何かなと思ってもらう→わかる→かける→楽しい!という流れが良いですね。身近なものとは、例えば町の看板や、道路の文字などがあります。ただ、書いて覚えるというのは、苦行に近いことです。でも字がわからないままというのもつらいことですよね。

字が「分かる」と「覚える」は違うことです。字を習得するプロセスでは、わかる→かける→使えるの3つの段階に分けることができます。これを9つのステップに分けて、詳しく書いていこうと思います。

字を習得する9つのステップ

ステップ1)文字を認識する

まず外国人はどれが文字かがわからないということもあります。看板や道路の文字などを見せて、どれが文字か探してもらいながら、文字として認識してもらう。日本語にはひらがな・カタカナ・漢字とあり、すべて文字だということを教えます。まだここでは、文字を読めなくても意味がわからなくても良いのです。あくまで、これが文字だということを認識してもらうことが大切です。色々なレアリア(実際の看板や標識などの生教材)を使って、私たちの身の回りには文字があふれていることに気づいてもらいましょう。

文字を認識した次は形を認識してもらう、です。

ステップ2)文字の形を識別する

50音表を渡して、形を見てもらいます。この表の中にあるものはひらがなですよということを知ってもらい、50音表を使いながら進めていきます。活動として、次のようなものがあります。

・ステップ1で使用したレアリアにある文字を50音表から探してもらう。

・「りんご」「あめ」「つくえ」など文字を書いておいて、ランダムに書かれたひらがなの中から特定の言葉を探させる。これには、一連の言葉を見つけるという楽しみもあります。

このように、単独の字がわかり、言葉がわかるというステップを踏んでいくことができます。

ステップ3)音韻情報と一致させる

形が認識できたら、音と紐づける作業です。

音韻情報と一致させる活動の例として次のようなものがあります。飴、蟻、足の写真を見せて「あめ」「あり」「あし」と発音する(最初は音と絵の視覚情報だけ)その後、絵などの視覚情報と音と字を見せながら、「a」はどれですか?と50音表から探させます。そうすると、「あ」が「a」であることがわかり、「これだ!」となるわけです。ポイントとしては、教えるのではなく発見させるということです。いくつもの言葉を並べて、規則性を探し出し、同じものを見つけ出す。これを学習者自身の力で導き出し、分かる!という気持ちにつながることで、勉強が楽しくなってくると思います。二つの言葉から同じものを探させることで、字と音が一致できます。供が言葉を習得するのと同じ仕組みなので、ひらがな言葉カードなども有効なツールと言えます。

ステップ4)書き順や座標感覚を認識できる

たとえば、これ「Ж」は、ロシア語のjに相当するものですが、「なんでもいいのでこれを真似して書いてください」と言われたらどうですか?「いや教えてくれた方が早いよ!」「正解を教えて?」となりませんか。意外と、好きに書いていいといわれると困るものです。日本語も同じです。学習者は、書き順を知りたがる傾向にあります。後から書きますが、何よりも、書き順を教えることで教師が指導しやすくなるのです。書き順を練習できるワークシートなどは、インターネットで探すこともできます。見せて、考えさせる、それから教える、の流れをつくることで「わかる」へと導くことができますただし、わかったと書けるは別物です。私たちが、「醤油」が分かっても、「醤油」と書けないように、学習者は「あいうえお」が分かっても、文字として書けるかは、また別物だということです。

ステップ5) 順番通りに書ける

ここから、各フェーズに移ります。

昔からよく使われているのが「空書」です。大事なのは、しっかりと手を使って書くということです。PPTや動画で見せるのでも良いのでは?と思われることがあるかもしれませんが、実際に一緒に手を動かすことが重要です。「字を書く」ということは、様々なタスクの集合体です。字をきれいに書くには次のようなタスクがの集合体によって成り立っています。

①姿勢のコントロール

②手の小筋を独立して動かすスキル

③手と目と手の協応

⓸運動プランニングの能力

①は、姿勢を整えることです。②は、上腕や手の様々な筋肉を独立して動かすスキルが必要になります。手の筋肉をコントロールして文字のバランスを整えています。③は、手の動きを目で追うことを指しています。➃は書き順の部分を指しています。横書いて、次は縦、回って止める、など次はどうするかということを頭の中で高速に処理しています。そのため、空書することで②のスキルを気にしなくてよくなるので、覚える上で、少しハードルが下がるわけです。水習字もおすすめです。ペンより柔らかいので書きやすくなります。

空書では書き順をしっかりと意識させることが大切です。書き順を教えることで、指導がしやすくなります。例えば、さんずい偏をさんずい偏として教える必要がなくなります。1,2,3、はこうだよど数字で示すことができるのです。書き順を意識させるのに「書き順足し算」というものも有効です。例えば、「ぼ」+「あ」は?と問われたら、自然と空書して考えると思います。それぞれ画数が6と3なので、6+3だなとわかるわけです。書き順を意識させるのに空書は非常に有効なのです。

ステップ6)フレームの中でバランスを整えることができる

字のバランスなど字体の話です。「それはバランスが悪い」といった、大雑把な指摘はよくありません。    「1はこう、2は短く、4は長く、三角を意識して」など、明確な指導ができるようにします。文字を図形認識して指導できるようにするとよいです。

ステップ7)細かい部分をしっかり整えることができる

「き・へ」などのとめ、「か・け」などのはね、「れ・め」などのはらい、「ろ・ち」などのおれ、「と・つ」などのまがり、「て・ん」などのおりかえし、「ぬ・る・む・す」などのまる等細かな注意点に気を付けます。こうしてみると、まるに関しては、全て違う形の丸をしていることに気づきます。

ステップ8)一つ一つの文字を同じ大きさで書くことができる

ここでようやく、方眼紙を使って練習していきます。方眼紙を使うことで、文字によって大きくなったり小さくなったりする自分の癖も見えてきます。方眼用紙で文字の大きさを整える練習をします。

ステップ9) 意味のある言葉を書くことができる・ 文字で意思疎通ができる・文字を使ってクリエイティブな活動ができる

蟻の絵を見せて、「あり」と書く練習、挨拶を文字で書いてみる、自分で字を書いて栞や短冊を作るなど、子ども用の学習教材なども有効で充実しています。

おまけに、、、どういう順番で教えるかという論点もあるのです!1つ目に、あいうえお順、50音の順番通りに教える方法です。2つ目に、字形やさしい順、画数も少なく、複雑な動きをしない「し」「い」「く」などから始め、「ね「れ」などは最後の方にする方法です。3つ目に、教科書に出てくる順 これは、習った単語の文字から覚えていく方法です。

 

最後に

ここまで見てきたように、字というのは簡単なようで難しいです。文字を教える要素は段階に分けて細かく刻むこと、ステップを踏むことがわかりました。文字というのは、かつては限られた人間だけが扱うものだったため、非常に高度なものだと言えます。そのような意識を持ちつつ、どうすれば、分かりやすく伝えることができるかということを、色々な形で研鑽を深めていただきたいと思います。

この記事の筆者
東京中央日本語学院(TCJ)
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