

日本語学習者が受験する日本語試験って、どんな試験があるの? 日本語能力試験(JLPT)編
日本語能力を示す日本語試験の種類
【代表的な日本語試験】
日本語能力試験 JLPT …日本語能力を測定し認定する試験
日本留学試験 EJU …日本の大学等で必要とする日本語力及び基礎学力の評価をする試験
上記に挙げたような日本語試験の受験者(日本語学習者)は基本的に、日本語を母語としない人を対象としています。自国育ちの外国人はもちろん、海外で生まれ育ち、子どもの頃にほとんど日本語を使うことがなかった日本人も対象となります。ただ、日本語検定のような“日本語を使うすべての人”を対象としている試験もありますので、混同しないように注意ください。
今回は、日本語試験の代表格である日本語能力試験(JLPT)について詳しく紹介していきます。
【日本語能力試験(JLPT)】
・受験者数
国内国外ともに、2022年7月の受験者数は 356,505人。12月の受験者数431,449人となっておりますが、過去の試験に関する応募者数・受験者数は、上記リンク内の統計データを参考ください。
・受験要件
日本語能力試験はN1~N5の5つのレベルに分かれています。受験するレベルは日本語能力試験のホームページに掲載されている「問題例」を参考に決めるのもいいと思います。いずれのレベルも多肢選択によるマークシート方式です。受験科目は、文字語彙、文法読解、聴解です。試験時間はレベルによりますが、90分〜170分程度です。合格するためには、「合格点以上の総合得点をとっていること」と「言語知識・読解・聴解のすべての得点区分において基準点以上の点をとっていること」の2つが必要です。1つでも受験しない試験科目があった場合、不合格となります。ちなみに、総合得点の合格点は180点満点のうち、80~100点以上(全体の5、6割)がボーダーとなります。
日本語能力試験の受験を希望する場合、日本語能力試験のホームページから「My JLPT」に登録し、登録時に発行されたIDと自分で設定したパスワードがあれば、受験申込情報を簡単に登録できます。登録が完了したら、クレジットカードまたは銀行振込やコンビニエンスストア払いのいずれかで受験料7,500円(税込)を支払います。
・試験日程/場所
日本語能力試験の実施日程は、基本的に7月と12月の年2回です。2024年は7月7日(日)、12月1日(日)に開催されます。試験は全国47都道府県で実施されていますが、試験会場に関しては試験直前まで確定しないため、受験者は受験票で知らされることになります。また、応募の状況などによって、隣接都府県の試験会場になる場合があります。
・難易度
試験内容が最も難しいのがN1で、数字が増えるほど難易度が低くなります。N1の表現は日本人でもあまり使用しない言葉が用いられることもあります。日本語能力試験のレベルが高い人ほど、学習している日本語文法レベルが上がっていて、様々な場面において多様な表現ができます。
・受験目的
留学の場合、在留資格の「留学」では、N5レベルを入学時に必要とされています。また、専門学校進学ではN3やN2レベルを受験条件にしている学校がほとんどです。大学や大学院ともなると、N2やN1といったレベルが受験時に要求されます。
就職の場合、一般的にN1もしくはN2レベルに合格していると、就職の際のアピールポイントになります。日本語能力についてある程度のレベルが保証されることはもちろん、N1やN2を取得するためにきちんと日本語を勉強してきたという証明でもあります。
日本語能力試験(JLPT)の課題
日本語能力に必要な「読む」「書く」「話す」「聞く」の4技能を基準に考えてみると、日本語能力試験(JLPT)では、「話す」が受験科目にないことから、日本語能力を測る総合面でのバランスが悪いという課題があります。これはJLPTに限ったことではなく、日本留学試験(EJU)や他の日本語の試験でも同様に、「話す」能力を測る会話試験が少ないことから、日本語学習者の会話能力を証明することはなかなか難しいです。口頭能力が測れるACTFL-OPIなどありますが、汎用性があまりないのが現状です。
日本語を学ぶ学習者は、進学や就職のために、面接を受けます。
その際に、試験対策をしてきた学習者は、日本語能力試験にN1合格していたとしても、「話す」スキルが育成されていないと、面接がうまくいかず、合格や採用を勝ち取ることができません。仮に、進学や就職ができても、学内や社内のコミュニケーションがうまくできず、社会生活に馴染めない場合もあります。
面接官や採用担当者からみても、書類には日本語能力試験N1合格しており、日本語力が高いと思って面接しているのに、日本語力が低いという印象を与えることになり、期待値とのギャップが生じます。
このような状況は、日本語学習者にとっても面接官や採用担当者にとっても望ましいことではありません。
今後、4技能バランスよく学習することはもちろんですが、「話す」能力を試験で証明できるように、担保していくことも必要だと考えています。
日本語能力試験(JLPT)対策授業って、どんなことをするの?教師に必要なスキルは?
多くの日本語学校ではJLPT対策授業を実施して、進学や就職に必要なN3~N1といったレベル取得を目指した授業があります。
初級レベルであるN5やN4であれば、初級総合教材に出てくる文法と重複する内容であることが多いため、文法指導の苦労は多くないかもしれませんが、N3以上になれと、中上級の文法指導になるので、文法分析や授業準備に時間がかかると思います。
JLPTの出題科目は、語彙・文法・読解・聴解とありますが、文法指導のみならず、読解及び聴解指導もも必要です。語彙や漢字は学習者自身で自習しやすいですが、文法指導の文法や読解、聴解は、教師の助けや対策授業をすることで、効率的に学習が進みます。
JLPTは、マークシート式の4択式となっておりますが、限られた時間の中で全ての問題を解答すること、そして、1問解くのに使える時間を指導することも試験合格テクニックとして大切なことです。特に、文法と読解の問題は1つにまとまっていることから、計画的に解答していくことが求められます。
例えば、N3の文法読解問題は70分ありますが、前半の文法は23問、後半の読解は16問あります。読解に1問3分の時間を割こうと思うと、文法は1問1分程度で解かないとタイムオーバーになります。
実際のJLPT対策授業では、過去問が公開されていないので、公式問題集に沿った模試教材などを用いて、学習者が問題を解き、解答・解説していく流れが多いですが、単に答え合わせをすることが対策授業なのではなく、間違えた場合に、自分の解答と正解がどうして異なるのかを学習者自身に問い、学習者が正解にたどり着けるようなヒントを教師が提示し、指導していく授業こそがJLPT対策授業です。
試験対策授業と、総合日本語授業と大きく異なるところは、試験合格のためのテクニックも一緒にトレーニングすることと、間違えたところに対して、正解に導くためのヒントを出したり知識定着のための記憶の手助けをしていくことです。
JLPTは、もっとも汎用性の高い試験と言っても過言ではないことから、試験合格対策スキルを持った日本語教師は今後さらに必要になります。私自身も、外国人受入企業などで日本語教師向けに「JLPT指導対策講座」を受け持っておりますが、需要は毎年高まってきていると実感しています。
日本語能力試験(JLPT)、日本留学試験(EJU)以外の日本語の試験について
日本語試験には、JLPT様々な試験があります。
J.TEST実用日本語検定 …外国人の日本語能力を客観的に測定する試験
STBJ(標準ビジネス日本語テスト)…ビジネスに求められる敬意表現やビジネスマナーに関する知識が測れる試験
J.TESTはJLPT同様、世界の主要国で実施されている日本語試験で、満点は1,000点、出題科目は語彙・文法・読解・聴解の4科目から構成されています。N2は800点相当、N1は900点相当と言われていますが、1,000点満点取れる学習者はN1よりも珍しいことから、N1よりも難しいとも言われています。
また、STBJは敬語や接遇表現などを扱ったビジネス日本語試験で、出題科目はJLPT同様の4科目から構成されており、J.TEST同様、満点は1,000点満点です。こちらもN1より難しいとされるハイクラスの日本語試験です。
上級者向けの日本語試験とは別に、国際交流基金が推奨する初級者向けの日本語試験「日本語基礎テスト(JFT)」があります。
JFT-Basic 日本語基礎テスト …日本の生活場面でのコミュニケーションに必要な日本語能力を測定する試験
こちらのテストは、日本で長く働くための在留資格「特定技能」ビザを取得するために必要な日本語試験として、最近話題になっています。
「特定技能」ビザを取得するためには、①各分野の業務に関連した技能の試験 ②日本語能力に関する試験の2つに合格しなければなりません。この②に関しては、「日本語能力試験(JLPT)」または「日本語基礎テスト(JFT)」のいずれかひとつで、決められたレベルに達していることが必要です。このうち日本語能力試験を選択する場合、N4以上に合格することが求められます。技能実習から特定技能へ在留資格を移行する際は、技能実習2号を良好に修了していれば②は免除されます。
まとめ
日本語能力を示す試験はいくつかありますが、その中でも最も汎用性の高い日本語能力試験(JLPT)について説明してきました。
・JLPTでは、「話す」「書く」能力は測れない
・N1合格でも「話す」レベルがN1ということではないことから、面接の際に課題となることが多い
・試験対策授業を担当する教師は、1問何分で解くか等も指導できるスキルが必要
日本語能力試験は、受験者の多い試験です。よって、日本語学習者からの対策ニーズも高いと言えます。まずは、試験の概要を知ること、それから、試験合格に導くスキルが教師には求められます。
参考
・日本語能力試験(JLPT): https://www.jlpt.jp/
・日本留学試験(EJU): https://www.jasso.go.jp/ryugaku/eju/index.html
・J.TEST実用日本語検定:https://j-test.jp/
・STBJ(標準ビジネス日本語テスト):https://www.ajlea.net/stbj/
・JFT-Basic 日本語基礎テスト:https://www.jpf.go.jp/jft-basic/
・特定技能総合支援サイト(出入国在留管理庁):https://www.ssw.go.jp/

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第1回・日本語教員試験を受験、第2回目に向けて出来ること
日本語教員試験について、実際に受験した感想をお伝えします。今回、受験したのは応用試験のみでしたので、こちらを中心に話題を進めていくことになります。応用試験は、聴解試験と読解試験の2つから成り立っており、主に日本語教育能力検定試験の試験ⅡとⅢがベースになっています。授業現場で遭遇するであろう課題の解決や事態の改善等について、理論化された知識と紐づけて出題されているというのがおおよその見方です。教育能力検定試験時代からの難所であった、聴解の問題をどのように突破するかが鍵となりそうです。