日本語教師に求められる資質・能力とは?
概要
この記事では、日本語教師に求められる資質・能力について解説します。文科省が発表した、日本語教師の育成に関わる要件をまとめた「登録日本語教員実践研修・養成課程コアカリキュラム」では、日本語教師に必要な知識・技能・態度について詳しく記述されています。今回はその内容をわかりやすく解説しますので、今求められている教師像や、必要な資質について一緒に理解していきましょう。
日本語教師に必要な要件とは?
日本語教師に必要なものとは何でしょうか。「日本語の知識」「日本文化の理解」「外国語の能力」・・何が浮かびますか?
「日本語を教える」というとつい、「日本語について説明ができること」だと想像しがちですが、それだけではありません。日本語教師の国家資格である「登録日本語教員」の創設にともない、文部科学省は2024年に、日本語教師の養成についての内容をまとめた「登録日本語教員実践研修・養成課程コアカリキュラム(以下、コアカリキュラム)」を発表しました。ここでは日本語教師に求められる知識・技能・態度について、28の要件が示されています。
今回はその内容を噛みくだいて、どんな資質やスキルが必要なのか、分野別に解説します。日本語教師の養成講座でも、このカリキュラムに則った学習を行うことになりますので、日本語教師を目指している皆さんにはぜひ、事前学習としてお役立ていただければと思います。
日本語教師に求められる資質・能力① 知識
まずは、知識面の要件です。以下、コアカリキュラムからの引用とともに紹介します。
1) 言語や文化に関する知識
まずは何と言っても、日本語そのものの知識や日本文化に関する知識ですね。漢字や敬語、伝統文化などを想像するかもしれませんが、ここで言う「知識」はさらに広い範囲の内容が含まれます。
コアカリキュラムでは、以下のように記載されています。
・外国語に関する知識、日本語の構造に関する知識、そして言語使用や言語発達、言語の習得過程等に関する知識を持っている。
・個々の学習者の来日経緯や学習過程等を理解する上で、必要となる知識を持っている。
日本語教師は、日本語を含む様々な言語がどのように使われ、どのような文化的・社会背景とともにあるかという広い視点での知識を持つことが求められます。
・世界にどのような言語があり、日本語とどのように違うのか、また、共通しているのか。
・一般的に言語習得にはどのような道のりがあり、どのような方法があるのか。
・どのような人がどのような経緯で日本語を学ぶのか。
・文法や発音を含め、日本語の言語体系・構造がどうなっているか。
・日本にはどのような習慣があり、どのようにそれが生活の中で表れるか。また、日本語でのコミュニケーションで、その習慣がどのように表れるか。それらを、どのように伝えるか。
など、人間がどのように言語を習得し、使い、社会とつながっているか、それを個々の学習者の学習にどう活かせるかという視点で学んでいきます。
2) 日本語の教授に関する知識
もうひとつは「教え方」に関する知識です。
・日本語教育プログラムやコースにおける各科目や授業の位置付けを理解し、様々な環境での学びを意識したコースデザインを行う上で必要となる基礎的な知識を持っている。
・日本語教育の目的・目標に沿った授業を計画する上で、必要となる知識を持っている。
・学習者の学習過程を理解し、学習者に応じた内容・教材(ICTを含む)・方法を選択する上で必要となる知識を持っている。
・言語・文化の違いや社会における言語の役割を理解し、より良い教育実践につなげるための知識を持っている。
・異なる文化背景を持つ学習者同士が協働し、主体的に学び合う態度を養うための異文化理解能力やコミュニケーション能力を育てるために必要な知識を持っている。
・学習者の日本語能力を測定・評価する上で必要となる知識を持っている。
・自らの授業をはじめとする教育活動を客観的に分析し、より良い教育実践につなげるための知識を持っている。
日本語教師には日本語の授業・カリキュラムの設計や、実際の授業を行うために必要な教材の知識、またその教育効果の判断をするための評価方法などの知識も必要です。クラス運営ではグループ学習なども行いますので、学習者同士の理解を促し、関係を構築できるようにする方法や、クラス運営に必要な知識も学ぶ必要があるんですね。
日本語教育と言っても様々な教育法があり、学習者やコースの目的によって、いろいろな教材が出版されています。それらの中から最適な方法を考え、必要に応じて授業計画に合わせた教材を作成するなどの「現場力」の基礎となる知識も学びます。
3) 日本語教育の背景をなす事項に関する知識
・外国人施策や世界情勢など、外国人や日本語教育を取り巻く社会状況に関する一般的な知識を持っている。
・国や地方公共団体の多文化共生及び国際協力、日本語教育施策に関する知識を持っている。
語学への興味やニーズは、その時の政界情勢や経済状況などに影響を受けます。日本語学習のニーズもまた、日本と諸外国との関係性や日本のそのときの立ち位置などによって変化します。そうした変化するニーズに合わせた支援や施策を行っている団体、活動などについても知識を広げます。
日本語教師に求められる資質・能力② 技能
次に技能面です。知識を実際に現場で使うための様々なスキルについて述べられています。
1) 教育実践のための技能
・日本語教育プログラムのコースデザイン・カリキュラムデザインを踏まえ、目的・目標に沿った授業を計画することができる。
・学習者の日本語能力等に応じて教育内容・教授方法を選択することができる。
・学んだ知識を教育現場で実際に活用・具現化できる能力を持っている。
・学習者に応じた教具・教材を活用または作成し、教育実践に生かすことができる。
・学習者に対する実践的なコミュニケーション能力・異文化間コミュニケーション能力を持っている。
・授業や教材等を分析する能力があり、自らの授業をはじめとする教育活動を振り返り、改善を図ることができる。
技能には授業づくりやその実践に必要な技能と、学習者とのコミュニケーションに必要な技能があります。授業づくりに必要な技能とは、「どのような方法が良いか考え、カリキュラムや教材を実際に作るスキル」「実践し、自ら分析し、改善していくスキル」です。
コミュニケーションに関わるスキルは、「異なる価値観を持った学習者が共に学べる環境を作る、学びを促すためのスキル」です。教室の中では異なる背景を持った学習者がいっしょに考え、日本語を学びます。学習者はそれぞれ異なる文化・社会規範の中で教育を受け、教育に対して様々な価値観を持っていますから、教師自身も、学習者とのやり取りの中で、自分が受けてきた教育の価値観を振り返る機会が多くあることでしょう。知識をいくら学んでも、実際の現場ではその通りに行かないことの方が多いもの。教師も実際のコミュニケーションの中で試行錯誤しながら学び、実践していく必要があるのです。
2) 学習者の学ぶ力を促進する技能
・学習者の日本語学習上の問題を解決するために学習者の能力を適切に評価し指導する能力を持っている。
・学習者が多様なリソースを活用できる教育実践を行う能力を持っている。
・学習者の理解に応じて日本語を分かりやすくコントロールする能力を持っている。
ここで述べられているのは、学習者の課題を的確に分析したり、教師自身が相手に合わせて話し方を調整するスキルです。他の記事でも紹介していますが、「ティーチャートーク」と呼ばれる、学習者にとって理解しやすい日本語を話すスキルは日本語教師に必須です。
3) 社会とつながる力を育てる技能
・学習者が日本語を使うことにより社会につながることを意識し、それを教育実践に生かすことができる。
日本語教育を行う上でもう一つ大切な視点として、「日本語学習のそのあと」を考えるというところがあります。教師は基本的に、学習者の生活のすべてに関わるわけではありません。学習者が教室の外で、また教育を受けたその先に、社会の中でどのような人と関わり、言語生活を営んでいくのか。「授業の先にあるもの」を意識しながら「いま」の教育に関わるという視点が欠かせません。
日本語教師に求められる資質・能力③ 態度
知識や技能があっても、学習者との関わり方において適切な心的態度がなければ、良い教師になることはできません。コアカリキュラムでは、以下の3つの側面から、日本語教師に求められる態度をこのように示しています。
1) 言語教育者としての態度
・日本語だけでなく多様な言語や文化に対して深い関心と鋭い言語感覚を持ち続けようとする。
・日本語そのものの知識だけでなく、歴史、文化、社会事象等、言語と切り離せない要素を合わせて理解し、教育実践に活かそうとする。
・日本語教育に関する専門性とその社会的意義についての自覚と情熱を有し、自身の実践を客観的に振り返り、常に学び続けようとする。
2) 学習者に対する態度
・言語・文化の相互尊重を前提とし、学習者の背景や現状を理解しようとする。
・指導する立場であることや、多数派であることは、学習者にとって権威性を感じさせることを、常に自覚し、自身のものの見方を問い直そうとする。
3) 文化多様性・社会性に対する態度
・異なる文化や価値観に対する興味関心と広い受容力・柔軟性を持ち、多様な関係者と連携・協力しようとする。
・日本社会・文化の伝統を大切にしつつ、学習者の 言語・文化の多様性を尊重しようとする。
日本語教師に限らず、「先生」と呼ばれる職業は潜在的に、授業の内容を決める、励ます、叱る、指示をするなど、情報を「与える」立場になりやすいです。それに加え、言語の教師であるということは往々にして「教師がマジョリティ側・学習者がマイノリティ側」になりやすい環境にあります。教師は、自分が学習者に与える影響を心に留めておかなければいけません。
海外での生活経験がある方は感じたことがあるかもしれませんが、ことばや社会のルールが分からない中で生活していると、不便や無力感を感じやすいですよね。日本で生活していない場合でも、日本での考え方や言語行動の違いに疑問を感じることもあるかもしれません。教師は、学習者の価値観、教師自身の考え、そして社会全体のあり方を相対的に考えながら教育に関わっていくということが大切ではないかと思います。
筆者自身も、この数年でまた特定技能などビザの種類の変化や円安などの経済状況の変化もあり、学習者の数も需要も変わってきていると感じています。これから日本語教師になる上では、日本語の言語学的な基礎知識や多文化共生への態度は大前提として、「資格者としての日本語教師」に求められる資質として「ニーズに合った教育実践ができる」という点はこれから特に重要になっていくのではないかと思います。
学習者は日本語の先生からのみ日本語を学ぶわけではありません。普段接する同僚やクラスメイト、日本の動画コンテンツやワンコインのオンラインレッスンなど、日本語を学ぶ場がたくさんあります。
しかし、最近の状況では、留学生だけでなく、日本への移住者・日本での就労者が増え、「将来を考えて専門機関に依頼したい」という方や、初めて外国人を雇用することになり日本語教育機関に日本語の研修を依頼する企業も増えています。こうした場合はやはり長期的・構造立てられた日本語教育の計画が必要ですし、「その場その場で楽しく交流ができれば」「周囲に聞きながらやっていけば」というやり方では対応し切れない部分が出てきます。ここはまさに、日本語教育の専門機関、そしてそこで働く登録日本語教員にしかできない仕事であるように思います。
学習者の数・ニーズの広がりに合わせて、2024年に「登録日本語教員」の制度や「認定日本語教育機関」の制度が作られました。多くの現場では今、こうした状況の変化に対して、新たな体制作りを進めている最中です。新規入国者が増えた国の翻訳版の教材や、外国人の受け入れが増えている業界の仕事に合わせた教材・教授方法などはまだ例が少なく、現場で試行錯誤しながらやっています。外国人を採用し始めた企業などでも、急ピッチで採用・教育・評価の制度などを整えているところは多く、その中で日本語教育機関が依頼や協力を求められることもあります。
こうした中にあって、日本語教育機関に対してより高い「専門性」が期待されているのではないかと思います。日本語教師は一番現場の部分で基盤を支える役割ですから、決められたカリキュラムをこなすだけではなく、いずれは自分で考えてデザインできるようになっていかなければいけません。学習者のニーズに対し何をどこまでする必要があるのか判断すること、学習者とその周囲(雇用側の企業など)の日本語学習へ考え方や認識のずれがないかを考慮すること、それらを踏まえて一つの学習カリキュラムとしてまとめるための知識、それを実践するという一連のスキルを持てるよう、筆者自身も精進しているところです。
まとめ
今回は日本語教師の資質・能力についてお話ししました。実際に日本語教師になってみると、ここで述べられている内容について共感する部分や、自分の実体験と合わせて解釈が変わってくる部分もあるかもしれません。ぜひご自身の学んだことや経験したこと、これから経験していくことと関連付けながら、自分の目指す日本語教師像について、考えてみてください。
参考・引用
文科省HP「登録日本語教員実践研修・養成課程コアカリキュラム」
https://www.mext.go.jp/content/20240321-ope_dev02-000034812_4.pdf
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