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直接法とは?日本語が分からない人に日本語で教えられるの?

目次

概要

日本語教師だと自己紹介をすると、「じゃあ英語がペラペラじゃないといけないんですか?」とよく聞かれます。もちろん、英語をはじめとする外国語ができる先生方は多いですし、外国語の知識はこの仕事で大いに役立ちます。しかし、実際の日本語学校のクラスでは、多くの場合「日本語で日本語を教える」方法、直接法が採用されています。

 

今回は「直説法って何?」「どうして媒介語を使わないの?」「日本語で日本語を教えるってどうやるの?」そんな疑問にお答えします。

直接法(ダイレクト・メソッド)とは?

「直説法(ダイレクト・メソッド)」とは、学習者の母語や媒介語で翻訳せず、学んでいる言語だけを使って教える方法のことです。日本語教育では、「日本語で日本語を教える方法」ということになります。

 

皆さんの中にも、英会話教室や学校などで、ネイティブの先生に英語を教わった経験がある方もいるのではないでしょうか。英語だけの授業でも、先生が生徒のレベルに合わせた英語で話してくれたのではないかと思います。日本語教育での「直説法」とは、その日本語版を行うようなイメージです。

 

直接法による日本語授業の様子については、じんちゃん先生がYotubeにて動画をアップしてくれています。興味がある方は、ご覧になってみてください。

・日本語の直説法での教え方

例えば、「~てもいいですか?」という文法を教える場合。

母語話者なら「これは許可を求める表現です」と言えば済みますが、直説法では「学習者が知っている語彙・表現」だけを使って説明しなければなりません。

 

ここでは例として、初級で習う「~てもいいですか」という表現の意味を、「許可」という言葉を使わずに、日本語だけで初級者に説明してみましょう。

 

私の授業のときは、以下のような感じで話しています。

 

(パワーポイントの画像などを見せながら)

「ここは美術館です。写真を撮りたいです。でも、ここ、写真、いいですか?だめですか?わかりません。わかりません。あそこに、美術館の人がいます。私は質問します。

『(演技)・・あのう、すみません。写真をとってもいいですか?』

 

いいですか、だめですか、わかりません。皆さんは、質問しますね。

『写真を撮ってもいいですか』は、『写真をとります。いいですか?』です。」

 

 

ネイティブ同士での会話に比べ、簡単な言い方になっているのがわかりますね。

 

日本語学校では決まったカリキュラムがあり、クラスでは既に習った語彙文法を使って、新しい語彙文法を理解する。それを積み重ねることによって、レベルが上がっていきます。

 

学習者が既に知っている語彙文法しか使えないため、制限がある中で分かりやすく説明するスキルが求められます。初級では使える語彙が少ないため、パワーポイントなどを使って場面を見せ、文脈で意味を理解してもらえるようにすると、教師も説明を簡潔にできます。

 

しかしながら初級者と言っても、学習者のほとんどは成人です。

たいていのことは母語の知識や母国での自分の経験と照らし合わせて、理解することができます。

 

教師はあくまでも日本語のレベルだけを下げ、話し方や態度は子どもっぽくしないことがポイントです。

直接法のメリットは?

直説法のメリットは何と言っても「ターゲット言語(学ぼうとする言語)のシャワーを浴びられる」という点。

 

授業での説明もすべて日本語ですから、先生の話を聞くこと自体がリスニングの練習になりますし、あとに紹介する「間接法」に比べて「日本語を日本語で理解する力」が身につきやすいと言われています。

 

初級から直説法で学べば、早い段階から外国語を介さずに考え、聞く・発話する練習ができるので瞬発力も磨けます。

 

直接法のデメリットは?

学習者にとっては、授業中ずっと外国語で説明されることになるため、教師の説明が分からなかったり、重要なところを聞き逃したりしてしまう可能性があります。

 

また、複雑な内容を説明するにあたっては、母語や媒介語を使うよりも効率・スピードは落ちます。

 

母語なら一瞬で分かる内容でも、外国語で言われれば理解に時間がかかりますから、教師も一度に難しい内容を説明することはできません。

 

先にも述べたように、説明に使える語彙文法に制限があるため、「これ以上は言葉で説明のしようがない」という場面でどう理解してもらうかが、教師の腕の見せ所になります。

 

間接法(文法訳読法)のメリット

直説法とよく比較される教授法として、「間接法(文法訳読法)」があります。

これは簡単に言うと、母語や媒介語を使って外国語を学ぶ方法のこと。日本語教育では、「日本語以外の言語で日本語を教える方法」になります。

 

中学校の英語の授業などでは、先生が英語の教科書を訳しながら日本語で説明してくれますね。それも、間接法の一例です。

 

間接法の良いところは、学習者の負担が少ない点です。自分の母語で学べるので理解が早く、質問も自分の言語ですることができます。直説法では、外国語で外国語についての質問をするわけですから、質問したいことが教師にうまく伝わらないこともあり、ストレスに感じる学習者もいます。

 

特に大人の場合は、文法を論理的に理解することが学習の大きな助けになります。間接法なら、説明に使う語彙文法に制限がないので、直説法ではできない詳細な説明が可能。「理解」と言う点においては効率がいい方法と言えます。

間接法(文法訳読法)のデメリット

間接法はもともと古典などの外国語の文章を読むために開発された方法のため、聞く・話す能力があまり重視されないという特徴があります。そのため、読む力は伸びても、聞く・話す練習が不十分になることがあります。

 

また、学習者がどうしても母語や媒介語に頼ってしまい、肝心のターゲット言語の力が伸びないというデメリットもあります。

 

日本語で読んだり聞いたりした内容を他の言語に置き換えてから考える癖がついてしまうと、「日本語で日本語を理解し、発話する」力がつきません。

 

日本語学校では、なぜ直接法を用いて日本語を学習するのか?

国内の多くの日本語学校では、「直説法」を用いた授業が行われています。

 

日本語学校のように色々な母語の学習者が集まる環境では、学習者の母語もバラバラ。加えて、すべての学習者が共通語としての英語が得意というわけでもありません。

こうした環境では、平等性を保つためにも、日本語を共通語とするほうが有効です。

早い段階から日本語環境に慣れることで、聞く・話す力、そして日本語で日本語を理解する力を鍛えることも期待できます。

また、直説法では外国語ができなくても教えられるため、人材の確保がしやすいという学校・教師側のメリットもあります。

 

主に社会人を対象としたマンツーマンのレッスンなどで、英語などを使った間接法の授業を行っている場合もありますが、教え方については教育機関ごとに方針が異なります。就職活動の際には、自分の働きたい職場のやり方を確認しましょう。

 

ただ、直説法を使うにしろ間接法を使うにしろ、外国語の知識が役に立つという点は変わりません。学習者が誤用をしたときになぜそのような言い方をしたのか、教師がすぐに理解することができるからです。

例えば中国語を話す初級学習者が、スープのことを「お湯」と言ったりすることがありますが、これも母語での「湯」の使い方を日本語に当てはめた間違いです。

こうした背景知識を知っていると適切な指導ができますし、何より先生自身が外国語を学ぶことで、学習者の気持ちを理解しやすくなります。

 

教師も、新しいことを学び続ける姿勢を保ちたいものですね。

 

まとめ

母語話者であっても、日本語で日本語を説明するのは意外と難しいもの。外国人学習者にとって分かりやすい日本語の話し方については、「やさしい日本語」や「ティーチャートーク」などのキーワードも合わせて調べてみてください。

参考・引用

平畑奈美、『やさしい日本語指導10 日本語教授法』(2009)、国際日本語研修協会監修、株式会社凡人社

小林ミナ、『日本語教育能力検定試験に合格するための教授法37』(2010)、アルク

この記事の筆者
TCJ・コラム執筆者写真
TCJ日本語講座 非常勤講師
大野 綾香
大学で日本語教育を学んだのち、日本語教育能力試験に合格。日本語学校で留学生の大学受験指導・プライベートレッスン、教材出版等を経験後、2023年よりTCJにて留学コース・ビジネスパーソンのプライベートレッスンを担当。好きな分野は地域日本語教育、音声学。

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