試験ルートで日本語教員試験に合格するための勉強法
概要
登録日本語教員になるための国家試験、「日本語教員試験」。受けてみようかなと考え始めたけど、どうやって勉強していけばいい?そもそもどんな問題が出題されるの?特に難しい部分は?今回は、これから試験ルートで国家試験に向けて学習を進める方に向けて、日本語教員試験の概要や勉強法をお伝えします。ぜひ、自分の学習プランを考える際の参考にしてみてください。
日本語教員試験とは
日本語教員試験は大きく二つの部分に分かれています。理論的な知識を問う「基礎試験」と、実践的な知識を問う「応用試験」です。基礎試験では日本語そのものの問題(言語学の問題)や教育学・心理学の理論、日本語教育を取り巻く社会的背景に関する知識などが問われます。そして応用試験ではもう少し具体的に、実際の教室活動や教材の例、学習者の誤用への対処法などの例が提示され、その特徴や妥当性、問題点を判断させるような問題が出されます。応用試験には読解と聴解があり、聴解問題では、学習者の発話を聞いて修正すべき点を判断させる問題や、日本語の発音の仕方やアクセントの型を選ぶ問題などが出されます。
登録日本語教員養成機関の講座を受講すると基礎試験が免除されます(「養成機関ルート」)が、これを受講せず、「試験ルート」で合格を目指す場合、この基礎試験と応用試験の両方を突破する必要があり、それぞれの試験内容に合わせた対策が必要です。
・基礎試験、応用試験の出題範囲
1)社会・文化・地域 (基礎試験での出題割合:1~2割)
| 世界と日本 | <1>世界と日本の社会と文化 |
|---|---|
| 異文化接触 |
<2>日本の在留外国人施策 <3>多文化共生 |
| 日本語教育の歴史と現状 |
<4>日本語教育史 <5>言語施策 <6>日本語の試験 <7>世界と日本の日本語教育事情 |
2)言語と社会 (基礎試験での出題割合:約1割)
| 言語と社会の関係 |
<8>社会言語学び <9>言語政策と「ことば」 |
|---|---|
| 言語使用と社会 |
<10>コミュニケーションストラテジー <11>待遇・敬意表現 <12>言語・非言語表現 |
| 異文化コミュニケーションと社会 | <13>多文化・多言語主義 |
3)言語と心理(基礎試験での出題割合:約1割)
| 言語理解の過程 |
<14>談話理解 <15>言語学習 |
|---|---|
| 言語習得・発達 |
<16>習得過程(第一言語・第二言語) <17>学習ストラテジー |
| 異文化理解と心理 |
<18>異文化受容・適応 <19>日本語の学習・教育の情意的側面 |
4)言語と教育(基礎試験での出題割合:約3~4割)
| 言語教育法・実習 |
<20>日本語教師の資質・能力 <21>日本語教育プログラムの理解と実践 <22>教室・言語環境の設定 <23>コースデザイン <24>教授法 <25>教材分析・作成・開発 <26>評価法 <27>授業計画 <29>中間言語分析 <30>授業分析・自己点検能力 <31>目的・対象別日本語教育法 |
|---|---|
| 異文化間教育とコミュニケーション教育 |
<32>異文化間教育 <33>異文化コミュニケーション <34>コミュニケーション教育 |
| 言語教育と情報 |
<35>日本語教育とICT <36>著作権 |
5)言語(基礎試験での出題割合:約3割)
| 言語の構造一般 |
<37>一般言語学 <38>対照言語学 |
|---|---|
| 日本語の構造 |
<39>日本語教育のための日本語分析 <40>日本語教育のための音韻・音声体系 <41>日本語教育のための文字と表記 <42>日本語教育のための形態・語彙体系 <43>日本語教育のための文法体系 <44>日本語教育のための意味体系 <45>日本語教育のための語用論的規範 |
| コミュニケーション能力 |
<46>受容・理解能力 <47>言語運用能力 <48>社会文化能力 <49>対人関係能力 <50>異文化調整能力 |
基礎試験はざっとこのような感じですが、応用試験はこの中から横断的に出題されるため、明確な問題ごとの範囲というものは示されていません。
第1回の日本語教員試験の結果
令和6年11月に行われた第一回試験では、全体の受験者は17,655人、うち合格者が11,051人と、全体の合格率は62.5%でした。これだけ見ると過半数が合格しているようですが、これは試験の免除を受け、移行措置で合格した現職者なども含んだ数字です。
現職者以外の受験者は「経過措置Cルート(新制度適用前の養成機関を修了)」と「試験ルート(独学で受験)」に分かれます。試験ルート(独学)で受験した人では、受験者は3,681人、そのうち基礎試験合格者は323人、応用試験合格者が322人で、合格率は8.7%にとどまっています。一方、経過措置のCルート(基礎試験免除)では合格率は60.8%と、大きく差が開いています。
第一回試験の時点ではまだ「登録日本語教員養成機関」に認定された機関がなかったため、「養成機関ルート」での合格者はいません。経過措置Cルートでの受験者も基礎試験が免除になっているため、実質「基礎試験」と「応用試験」の両方を受験して合格した人は9%に満たないということになります。今後、受験者が増えて合格率が変わってくる可能性はありますが、現状のデータでは、独学で合格するハードルは高いと言えるでしょう。
基礎試験を突破するための勉強法
上で紹介したように、基礎試験は範囲が広く、独学で学ぶには計画的な学習が必要です。登録日本語教員になるためには「基礎試験」「応用試験」に加え「実践研修」も受ける必要があるのですが、まず基礎試験に合格しなければその先に進むことができません。基礎試験は最初の段階で「足切り」をする役割もありますから、ここをパスすることが最初の難関となります。
・基礎試験の勉強のポイント
1)過去問は早い段階で見ておき、試験の概要を把握する
どのような出題形式かを知っておくと、その後の学習の心構えがしやすくなります。解かなくてもいいので、早い段階で一度見ておきましょう。また、ある程度学習が進んだ段階で過去問を解いてみることで、自分がどこを重点的に学習しなければならないのかを判断する手掛かりにもなります。
2)時間に余裕をもって学習計画を立てる
試験勉強は長い時間がかかります。自分の仕事や私生活との両立も含め、時間に余裕をもって学習を進めましょう。
3)言語知識の問題は「母語だから」と放置せず、論理的に理解する
言語知識の問題は、母語話者であれば感覚的に理解できるものも含まれています。しかし、甘く見るのはご法度。かならず「なぜその選択肢になるのか?」「ほかのものは何が違うのか」など論理的な理解をするようにしましょう。
4)丸暗記よりも、できるだけ自分の経験・関心と照らし合わせて覚える
「言語と社会」「言語と心理」などはどうしても暗記が必要な個所が多く出てきますが、自分の経験や関心と結びついた情報は忘れにくいです。「このころこういうニュースがあったな」「自分も外国語学習でこういう心理になったことがあるな」など、できるだけ自分との共通点を見つけながら学習していくと、覚えやすくなるのではないかと思います。
どのような資格試験でも言えることですが、何冊もの教材に手を出す必要はありません。養成講座の教材や市販の教材などメインとするものを決め、何度も読みながら自分のものにしていくと良いのではないかと思います。
応用試験を突破するための勉強法
・難関の聴解(音声)問題をどのように克服するか?
先にも述べたように、応用試験は聴解と読解に分かれています。前半の応用試験Ⅰは聴解問題で、50点の配点。後半の応用試験Ⅱは読解で60点の配点です。全体の110点中、66点取れば合格ラインとなります。
聴解でどういった問題が出るかというと、
1)日本語の発音、アクセントのパターンを見分ける問題
2)音を聞いて、どのように発音されているかを口腔断面図を見ながら答える問題
3)学習者が話す日本語や講師とのやり取りを聞いて、発音ややり取りのどの部分に課題があるか、どのように直せばよいかを問う問題
4)授業で扱う聴解問題を聞いて、教材としての問題点を問う問題
このような問題が出題されています。
この聴解問題を解くためには、
・日本語のアクセントや音の体系に関する知識
・非母語話者が話す日本語の音を聞き分けて課題を発見し、指導の仕方を判断するスキル
・学習者の視点で教材を批判的に見て、効果的に教材を作るスキル
などが必要になってきます。
特にこの聴解では、音声学の専門知識に加え、まとまった量の発話を一度に聞いて瞬時に問題点を判断しなければならないのが難しいポイントです。一文ごとに空白の時間が設けられていないため、「あれ、今のところちょっと違和感あったな…」と止まって考えたり書きとったりしているとどんどん次の文が流れていってしまい間に合わなくなってしまいます。
そのため、音声学の知識をしっかりと理解し、それを瞬時に聞き分けて判断できるように練習していくというのが基本的な対策になります。
・聴解対策のポイント
1)音声学の知識を体系的に身につける
特に口腔断面図やアクセントの問題は必ず出題されています。日本語のアクセントにどのようなパターンがあるのか、実際に色々な例で確かめながら理解しましょう。また、発音のしかたについては、人間が言語を話すときに、体のどこから、どのように声が出るのか?を意識して学ぶと良いでしょう。
IPA(国際音声記号)の表や口腔断面図だけで理解するのは難しいので、教材の口腔断面図を見ながら自分でも発音してみて、「硬口蓋」「軟口蓋」という場所の名称や、「破擦音」「摩擦音」といった調音の仕組みを自分の体の感覚と結び付けて理解すると良いのではないかと思います。また、さらにその音をIPAで表記するとどうなるのか?と、記号とリンクさせて視覚的に整理していくと、体系的に覚えることができます。興味があれば、音声学専門の参考書を読んでみるのも、理解を深める助けになります。
新試験が始まってまだ1年と少し。日本語教員試験の対策本というものはまだほとんど出版されておらず、日本語教員養成機関や出版社が現在急ピッチで教材開発を進めているところではないかと思います。今後、一般書でも対策本などが出ることが予想されますが、現状では「日本語教育能力検定試験」で使われていた教材や、既にある養成講座の教材を応用して使っていくことになるでしょう。
2)非母語話者の発音や発話にアンテナを立てて学習する
日本語教員試験の聴解では、母語話者の話す日本語ではなく、日本語を学習している人の話す「中間言語」を聞くスキルが重要です。中間言語というのは「言語習得の過程で学習者が作り出す、母語でも目標言語でもない、独自の言語」のこと。言語習得の過渡期にあたる学習者の日本語は、なかなか母語話者の普段の生活では聞く機会がありませんよね。
学習者の日本語の発音のバリエーションに慣れるためには、色々な母語・レベルの学習者の日本語を聞いて分析するのがいい練習になるのですが、なかなかそのような環境を作るのは個人では難しいですよね。そのため、まず試験対策の段階では、試験用の音声教材を最大限活用して練習を行いましょう。
ただ問題を解くだけでなく、ネイティブレベルの非母語話者、そして初級者や中級者がどのように発音するのか?日本語の音声体系にない音で日本語が話された場合どのように聞こえるのか?という点に注目してリスニング練習を重ねると良いのではないかと思います。
また、「なんとなくここが不自然だな」と感じる部分について、どの音の発音がどのように違っているのか、会話が不自然になっている原因は何か、どのように指導するかなどを言語化する練習をしてみましょう。
現場のスピーキングの指導では、短い発話を聞いてその場でフィードバックをしなければいけない場面や、短い時間の顔合わせで学習者の話を聞いて、レベルや課題を分析し、指導計画を作る…といった場面が出てきます。その時にも、こうした練習をしておくと役立つのではないかと思います。
日本語教員試験の試験内容や対策方法については、こちらの動画でも解説しています。ぜひ合わせてご覧ください。
まとめ
今回は日本語教員試験の勉強法について解説してきました。今勉強している方も、これから勉強を始める方にも、少しでも参考になれば幸いです。
当校では、通学スタイルの養成講座に加え、eラーニング教材もご用意しています。「遠方のため通うのが難しい」「ポイントを絞って、仕事や生活と両立しながら学習を進めたい」という方や、「独学ベースで進めたいけれど、学習の指針になるような主教材が欲しい」という方にピッタリな短期速習教材となっています。
日本語教員試験は範囲も広く骨折りに感じられる部分もあるかもしれませんが、日本の言語や社会について深く学べる、他の試験にはない面白さもあります。自分に合った学習プランで、ぜひ楽しみながら自分の知識にしていっていただければと思います。
本筋からは逸れますが、世の中にはニッチなニーズを満たす商品があるもので、インターネットのサイトでは口腔断面図のトートバッグやらIPAのTシャツやらいろいろと面白い言語学・音声学グッズが売られているようです。
筆者も音声学好きが昂じて、そろそろIPATシャツを買おうかと思っています。皆様も音声の勉強のお供に音声学グッズ、いかがでしょうか。ちょっと面白く、覚えやすくなるかもしれません。
参考・引用
国家試験対策が必要な方へ
TCJ日本語教師養成講座では、日本語教員試験の学習に特化したeラーニング教材を開発しました。
令和6年度日本語教員試験での合格率(当社調べ)
・基礎、応用試験 合格率44% (全国平均8.7%)
・応用試験のみ 合格率71%(全国平均 60.8%)
試験ルートの合格率が全国平均の約5倍となっています。
【こんな方におススメ】
・試験ルートで登録・日本語教員の資格取得を検討している方
・現在日本語教師として活躍中で経過措置に国家資格への移行が必要な方
・養成講座受講中で国家試験対策に不安がある方
詳しくは公式サイトでご確認ください。↓のリンクをクリック。
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