

日本語教育の参照枠とは?
概要
日本語教員試験にも出てくるキーワード、「日本語教育の参照枠」とはどのようなものでしょうか。この記事では、その内容や意図、活用方法をわかりやすく解説します。
日本語教育の参照枠とは?
日本語教員試験の勉強をしていて、「日本語教育の参照枠」という用語に出会ったことがあるでしょうか。
「日本語教育の参照枠」とは、「CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を参考に、日本語の習得段階に応じて求められる日本語教育の内容・方法を明らかにし、外国人等が適切な日本語教育を継続的に受けられるようにするため、日本語教育に関わるすべての者が参照することができる、日本語学習・教授・評価のための枠組み」です。
これだけだと分かりにくいので簡単に説明すると、
日本語教育関係者・日本語を学ぶ人・学習者のサポートにあたる人など、日本語教育に関わるあらゆる人が、「日本語のレベル」について同じ共通認識を持ちましょう、というのが「日本語教育の参照枠」の趣旨です。
この参照枠では、ただ「初級だ」「中級だ」というのではなく、「日本語を使って、何がどのくらいできたら○○レベル」と具体的に示すことによって、より正確に日本語力を把握することができるようにしています。
この「日本語教育の参照枠」では、日本語能力のレベルを示すための3つの尺度が示されています。
1)「全体的な尺度」
日本語能力の熟達度を大きく6つのレベル(A1~C2)で示しています。こちらは抽象的な大枠で、A1~A2は「基礎段階の言語使用者」、B1~B2は「自立した言語使用者」、C1~C2は「熟達した言語使用者」と位置付けられています。
「全体的な尺度」についてはこちらの記事でも詳しく解説していますので、合わせてぜひご覧ください。
日本語教育の参照枠「全体的な尺度」とは?日本語能力の6レベルを分かりやすくご紹介!
2)「言語活動別の熟達度」
日本語能力の熟達度を5つの言語活動(聞く・読む・話す(やりとり・発表)・書く)ごとに6レベルで示したものです。「全体的な尺度」を「聞く・読む・話す(やりとり・発表)・書く」のスキルごとに具体化したものということですね。
上記の6つのレベル(A1~C2)で、それぞれ5つの言語活動(聞くこと、読むこと、話すこと(やり取り・発表)、書くこと)ごとに何ができるかが示されています。
例えば「書く」スキルでは、A1レベルは「新年の挨拶など短い簡単な葉書を書くことができる。例えばホテルの宿帳に名前、国籍や住所といった個人のデータを書き込むことができる。」と定義されており、もう少しレベルの上がったB1レベルでは「身近で個人的に関心のある話題について、つながりのあるテクストを書くことができる。私信で経験や印象を書くことができる。」のようになっています。
各文が「~できる」という形で書かれているので、「そのレベルでは、その言語を使って何ができるか」が明確にわかるようになっています。
3)「言語活動別の熟達度」における「言語能力記述文」(Can-do)を具体的に表したリスト
2で示した技能別の能力をさらに細かく分けた「できることリスト」が示されています。この文は「~できる」という形で示されているため、「言語能力記述文」「Can-do Statements(キャンドゥ・ステイトメント)」と呼ばれています。
Can-doには、「活動Can-do」「方略Can-do」「テクストCan-do」「能力Can-do」があります。それぞれの特徴をまとめると、
・活動Can-do
言語を使って行う行動に焦点をあてたもの。聞く・読む・書く・話す(やりとり)・話す(発表)の5つの言語活動ごとに「広報・アナウンスや指示を聞く」「製品やサービスを得るための取引」「情報の交換」などに分けたもの
・方略Can-do
コミュニケーションの中で使う「戦略」に関わるもの。分からないことばがあったときに推測する、質問する、聞き返す、ジェスチャーを使う、言い換える、似ている言葉を使って説明し、相手に適切な語彙を提示してもらうなど。
・テクストCan-do
書かれたものの理解のしかたに関わるCan-do。文脈から類推するなど。
・能力Can-do
言語の運用そのものを支える能力に関わる部分。「言語能力(語彙や文法の知識など、言語そのものに関する能力)」「社会言語能力(相手との関係性や自分の社会的な立場によって適切に言語を調整する能力)」「言語運用能力(一貫した、まとまりのある内容を産出する能力)」の3つの分類で記述したもの。
例としてそれぞれのレベルでどのようなCan-doがあるのか見てみましょう。
例えば「活動can-do」の文を見てみると、A1レベルの書く活動では
「『そして』『しかし』『なぜなら』などの簡単な接続詞でつなげた簡単な表現や文を書くことができる。」
とありますが、もう少しレベルの上がったC1レベルでは、
「複雑な話題について、明瞭にきちんとした構造を持ったテクストを書くことができる。関連性のある重要点を強調して、補助的事項、理由、関連する詳細な事例を付け加えて、論点を展開し、それを維持していくことができる。最後に、適切な結論で終わることができる。」
と書かれています。
また、「能力Can-do」では、
B1レベルでは「自分の表現したいことを、比較的容易に表現できる。言語化する際に、間が 空いたり、『袋小路』に入り込んだりはするものの、他人の助けを借りずに発話を続けることができる 」
C2レベルでは「自分の言いたいことを、長い発話でも、自然で、苦労なく、詰まらずに、流れるよ うに、表現することができる。滞るのは、考えを表現するために最適な言葉を考えたり、適切な例や説明を探そうとしたりする時だけである。」
となっています。レベルが上がると、より複雑なことができるようになるのが分かると思います。
このような「言語能力記述文」(Can-do)は、「日本語でコミュニケーションを行うための具体的な行動目標」として、カリキュラムを作成するときや、学習の達成度を評価するときなどに活用することができます。
Can-do Statements(キャンドゥ・ステイトメント)については、のちほどまた詳しく説明します。
CEFRとは?
ここからは、日本語教育の参照枠と関連がある用語について解説していきます。まずは「CEFR」です。前述した通り、日本語教育の参照枠は、CEFRを参照して作られています。
CEFRとは、”Common European Framework of Reference for Languages: Leaning,Teaching, Assessment”の略で、日本語では一般的に「外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠」と訳され、「セファール」「セフアール」などと呼ばれています。簡単に言うと、外国語の能力を示す共通指標のようなものです。
CEFRでは外国語の能力をA1、A2、B1、B2、C1、C2の6段階に分け、各レベルで「その言語を使ってどのようなことができるのか」が明文化されています。
ヨーロッパを中心に世界中で使われている指標で、このCEFRを使うとあらゆる外国語の能力を同じ基準で測ることができます。
そしてこのCEFRをもとに、日本語教育に合わせて翻訳・修正をしたものが「日本語教育の参照枠」になります。
Can-doとは?
次は先ほども出てきた、Can-doについて。CEFRや日本語教育の参照枠では、言語能力のレベルを表す文を「~できる」という形で表しています。このような記述文のことを、Can-do Statements(キャンドゥ・ステイトメント:例示的能力記述文)と言います。(★つきの某百円ショップのほうではありませんのでご注意を!)
言語の熟達度を課題遂行能力に応じて示したもので、例えば以下のような文があります。
A1レベル
→「自分について、自分が何をしているか、自分が住んでいる場所を、述べることができる」
C1レベル
→「感情表現、間接的な示唆、冗談などを交ぜて、社交上の目的に沿って、柔軟に、効果的に言葉を使うことができる」
このCan do statementsは
・コースデザインやカリキュラム、授業計画の際の目標設定
・学習者の日本語能力を把握するためのアンケートの作成
・学習者の自己評価や目標達成度の評価
など色々な教育場面で活用することができます。
場面シラバスや話題シラバスの教材では、各課の初めと終わりに「この課でできるようになることは・・」「以下のことができるようになりましたか?」などの形で課ごとのcan-doが提示されているものもありますね。
授業の目標を設定するとき、「○○という文型を学習する」よりも、「その文型を使って何ができるようになることがゴールなのか」を明確にすると、授業デザインやその後の評価が容易になります。
例えば、初級の授業で「~てください」という文型を導入する場合、どのようなCan-doが行動目標として当てはまるでしょうか。
A2レベルでは、「簡単な表現を使って日常の課題に関するやり取りができ、物を要求したり、与えたり、簡単な情報を得たり、次にすることを話し合うことができる。」「話に付いていっていることを分からせることができる。もし話し相手が面倒がらなければ、必要なことを分かるようにしてもらえる。」というCan-doがあります。
これらのCan-doを実際の授業に当てはめて考えると、例えば、「道に迷ったときに他の人に道を聞いたり、道に迷った人に教えたりできる」という具体的な目標を立て、「病院の行き方を教えてください」「ゆっくり言ってください」「まっすぐ行ってください」などの道案内の表現を扱う授業を行うことができます。
プライベートレッスンなどでは、学習者に合わせたオリジナルCan-doを作ることも可能です。
例1:子どもの学校とのやりとりができるようになりたい生活者の場合
Can-do:「日本語だけで書かれた、小学校のおたよりを読んで子どもの学校の行事の予定や、必要な学用品が理解できる」「子どもの学校生活に必要な語彙表現を理解し、学校生活に関するやりとりができる」
例2:会話はできるが漢字がほとんど分からない、最低限メールやチャットなど社内でのやり取りができるようになりたい就労者の場合
Can-do:「会議日程の調整や日常的な業務の依頼を受けるなど、簡単な社内メールを読んだり書いたりすることができる」
など。
学習者やレッスンの目的に沿って、Can-doを設定してみましょう。
これからの日本語教育に求められること
現在、在留外国人の数は358万人以上(法務省統計より:2024年6月現在)。日本語教育の重要性はますます高まっていくと予想されます。
今回ご紹介した日本語教育の参照枠は、こうした状況の中で日本語教育の質の担保・向上を目的として作られたものでもあります。
拡大していく日本語教育の業界において、客観的な指標を持つことは信頼性を保つうえでとても重要です。また、日本語教育に関する共通の基準を持つことが、教育内容や教育者の質の担保につながります。
さらに、多様化する学習者のニーズに沿った教育内容のデザインをしていかなければなりません。Can-do statementの記述からも分かるように、個々人に合わせた具体的かつ詳細な授業デザインが求められていくでしょう。
まとめ
今回は「日本語教育の参照枠」の内容や活用方法について解説してきました。
今回の内容をまとめると、
・「日本語教育の参照枠」は、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を参考に、日本語の言語能力を6つのレベル(A1~C2)・5つの技能(聞く、読む、話す(やりとり・発表)・書く)に分け、それぞれの段階でできることを共通認識として示したものである。
・Can-do statements(キャンドゥ・ステイトメント)を活用して、日本語を使ったコミュニケーションでの行動目標を設定・評価することができる。
以下のサイトでも、日本語教育の参照枠やCan-doについてさらに詳しい情報が得られます。気になる方は、ぜひチェックしてみてください。
参考・引用
国際交流基金「CEFR Can-do一覧」
https://www.jfstandard.jpf.go.jp/pdf/CEFR_Cando_Level_list.pdf
文化庁「日本語教育の参照枠 報告」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/93476801_01.pdf
文部科学省 日本語教育実態調査 令和5年度報告「国内の日本語教育の概要」
https://www.mext.go.jp/content/20241101-mxt_chousa01-000038170_02.pdf

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