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イマージョン教育とは

目次

概要

イマージョン教育とは、単なる語学学習ではなく、算数や理科などの教科を第二言語で学ぶことで、自然に高度な言語能力を養う教育手法です。本記事では、カナダや日本、アメリカでの事例をもとに、その画期的なメリットやデメリットをお伝えします。

イマ-ジョン教育とは

母語とは違う第二言語で通常教科のすべて、または一部を教える教育的試みのことです 。英語の「immersion」には「浸すこと」という意味があり、文字通り、習得したい言語の環境に身を浸し、大量のインプットを受ける学習形態を指します 。

・イマ-ジョン教育が生まれた歴史と背景

1965年にカナダのケベック州で、英語を母語とする保護者たちの情熱によって始まりました 。当時のフランス語教育では、将来の社会生活に必要な高度な運用能力が身につかないことに不安を感じていました 。そこで「学校で教えられている通常教科をフランス語で教える」という極めてシンプルな結論に達したのです 。

1965年当時、「26名の実験クラス」から始まった試みは、徐々にカナダ全土に広がり大宮(2020)は、2017年には約46万人以上の子どもたちがイマ-ジョン教育を受けていることを報告しています。

・日本における展開

日本国内でも、1992年に加藤学園暁秀初等学校が導入したのを皮切りに、2020年度には、愛知県の豊橋市立八町小学校が公立小学校として初めて導入され、国語と道徳以外の科目を英語で指導する取り組みが注目を集めています。

イマ-ジョン教育の理論的支柱

イマージョン教育の成功を裏付ける理論的背景として、カミンズが提唱した「相互依存原理」が挙げられます。

カミンズは人間の言語能力を、日常会話に用いる「基本的対人伝達能力(BICS)」と、学校の教科学習など抽象的思考を支える「認知・学習言語能力(CALP)」の2つに分類しました。

この原理によれば、第二言語での教科学習を通じて培われたCALPは、言語の壁を越えて母語(第一言語)にも転移して力を発揮するとされています。 

この能力の転移がイマ-ジョン教育を受けている際にも起きるため、学習者は第二言語で学んでも母語の学力発達が阻害されず、通常プログラムの学習者と同等の一般学力を修めることが可能になるとされています。

イマ-ジョン教育のメリット・デメリット

イマ-ジョン教育は実際にどのような効果があるのでしょうか。こちらでは、メリットやデメリットをお伝えいたします。

・高度な第二言語能力

「聞くこと」や「読むこと」といった受容技能において、母語話者並みの高い能力を身につけることができます 。これは、単に言葉を暗記するのではなく、算数や理科という「意味のある内容」を理解するための手段として言葉を使うため、学習者にとって真実味(authenticity)のある生きた言葉として定着するからです 。

・母語(第一言語)への好影響

多くの保護者が「母語の発達が遅れるのではないか」と懸念しますが、実際には「付加的バイリンガリズム(additive bilingualism)」が実現されます 。

当初は母語の書き取りなどで若干の遅れが見られることもありますが、短期間で通常学級の子どもに追いつき、時には語彙力や思考力で上回ることもあるようです 。

・認知能力の転移

算数や理科を第二言語で学んでも、一般学力は通常学級と同等レベルに保たれるという調査があります 。これは、先ほどお伝えしたカミンズが提唱した「相互依存原理」によって説明されており、例えば、母語が英語の学習者がフランス語を通じて身につけた算数や理科の内容を英語でも同じように理解できるというものです。

上記のとおり、「認知・学習言語能力(CALP)」が、言葉の壁を越えて母語の環境にも転移し、抽象的な思考を支える力にも応用されます 。

一方で、教育現場ではいくつかの課題も浮き彫りになっています。

・文法的正確さの限界

受容技能は高くても、話す・書くといった「運用技能(アウトプット)」においては、母語話者に及ばないケースが散見されます 。特に時制やアスペクトの誤りが目立ち、特定のコミュニティでしか通じない「教室ピジン(Frenglishなど)」化するリスクが指摘されています 。これに対処するため、最近では「アウトプットの機会」を意図的に増やす指導法が模索されています 。

・教師への過度な負担

イマージョン教師は「教科担当」と「第二言語教師」の一人二役を演じなければなりません 。

例えば、 科学の教案と、それを説明するための言語指導案の2セットを作成することが期待されるなど、教師の準備に必要な時間が増加したり、母語と第二言語に対する理解を深めたりしなければならず、負担は大きいといえるでしょう。

・大人への効果は不透明

研究成果があげられているのは、子どもたちや小学校での教育に関してがほとんどです。そのため大人に対してはどのくらい効果があるのかは、現時点では分かっていないことも多いようです。

留学生の日本語学習にイマ-ジョン教育は使える?

日本語を母語としない子どもたちへのアプローチとして、アメリカの日本語イマージョン校での実践が留学生に対してもヒントになりそうです 。

・推測する力の育成

例えば、言葉による説明ではなく「絵」と「本文」を関連付けさせる読解授業が有効です 。絵から内容を予想(予測)し、それを本文のキーワードで検証するという「主体的な読解」を学ばせることができます 。

・質問カードの活用

 日本語での質問を文字で提示し、ゲーム感覚で答えさせることで、受動的になりがちな読解を能動的なタスクへと変貌させます。これは、日本語学校での授業でアクティビティの一環として、使えるでしょう。

まとめ

完全なイマージョン環境を整えることは、制度的・経済的に難しいかもしれません。しかし、その根底にある「意味のある内容を学ぶ」「媒介語に頼らず視覚情報を駆使する」という姿勢は、あらゆる言語学習に応用することもできそうです 。

このように「イマ-ジョン教育」のような語彙を実際の現場でどう生かすかという発想が「登録日本語教員」の試験にも必要となります。

もし「独学ではイメージがわかないかもしれない…。」という方は養成講座受講をおすすめします。

参考文献

  • 伊東治己(2007) 「カナダのイマージョン教育の成功を支えた教授学的要因に関する研究」 『鳴門教育大学研究紀要』22,138-160
  • 大宮明子(2020) 「カナダにおけるバイリンガル教育の現状に関する一考察」 『十文字学園女子大学紀要』51,119-131
  • 笠井千勢、阿久津元、神原利宗(2023) 「日本国内で開催される短期集中型イマージョンプログラムによる英語教育の効果」 『岐阜大学地域科学部研究報告』53,23-28
  • 山口真帆子(2002) 「日本語を母語としない年少者に対する絵本を用いた日本語教育 ――日本語イマージョン教育でのケーススタディ」『横浜国大国語研究 / 横浜国立大学国語・日本語教育学会 編』20, 25-11

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この記事の筆者
TCJ日本語講座 非常勤講師
蔭山 佑佳
教育IT業界にてWebマーケティング業を経て、国内日本語学校で非常勤講師、公的機関で日本語教育に携わったほか、技能実習生などにオンラインで指導を行う。現在はビジネスマンや児童に日本語を教えており、日々幅広い年代の学習者と向き合う中で、日本語指導の奥深さを感じている。学習ストラテジーや自律学習に興味あり。

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