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第1回・日本語教員試験を受験、第2回目に向けて出来ること

目次

日本語教員試験とは、国家資格である「登録日本語教員」になるために必要な資格試験です。去る2024年11月17日(日)に、第1回目の日本語教員試験が実施されました。受験者数は全国で17,655名で、うち基礎試験からの全試験受験者は3,947名、基礎試験免除者(応用試験のみ受験)は7,750名、基礎・応用共に試験を免除された日本語教育能力検定試験合格者が5,958名でした。

日本語教員の国家資格化については、各所で情報が公開されておりまして、本ブログでも岩崎先生が国家資格化の必要性について執筆しています。興味がある方はこちらもご覧ください。

今回、私が受験したのは応用試験のみでしたので、こちらを中心に話題を進めていくことになります。日本語教員試験は基礎試験と応用試験の2つに分かれます。試験ルートを選ばれた方は、基礎試験と応用試験を受験することになります。養成機関ルートを選択された方については、基礎試験が免除となり、応用試験を受験することになります。

基礎試験では、出題数が100問で120分となっており、下記の合格基準が設けられています。『必須の教育内容で定められた5区分において、各区分で6割の得点があり、かつ総合得点で8割の得点があること。』日本語教育全般の知識を網羅する専門的な分野からの出題となり、並大抵の試験ではないということが伝わります。

一方、応用試験は聴解試験と読解試験の2つから成り立っており、主に日本語教育能力検定試験の試験ⅡとⅢがベースになっています。授業現場で遭遇するであろう課題の解決や事態の改善等について、理論化された知識と紐づけて出題されているというのがおおよその見方です。

以上のことから、基礎試験については、広範囲に渡る出題範囲をいかにカバーするかがポイントであり、独学は難しく、長い時間をかけて少しずつ分野への知識を深める必要があると感じています。

一方の応用試験は、教育能力検定試験時代からの難所であった、聴解の問題をどのように突破するかが鍵となりそうです。

応用試験を受験してみての感想

実際に、 私が受験した応用試験について書いていきます。

 

その前に、SNSでの情報を見てみると、やはり難しいと感じた人がたくさんいるようです。しかしながら、そのコメントも不特定多数の方から発信されるものなので、実際には総受験者の中のどの割合で「難しい」と言われているのか、実態は分かりません。試験ルート、つまり独学の方が基礎試験から応用試験まで受験して感じたことと、養成講座の現役受講生で実技の模擬授業と理論の内容が何となく結びつき始めた段階の方が応用試験のみを受験して感じたことは違うでしょうし、日本語教員として日本語学校で授業を始めたばかりの方もいれば、中堅レベル、また10年、20年の大ベテランもいるでしょう。加えて、一口に未経験と言っても、大学院で論文を書いているような方もいれば、ボランティアとして経験を積まれた方もいます。その受験者の内訳たるや、これほど多種多様に渡る国家試験はないのではと思われます。しかも、今回が第1回の実施であるわけですから、いろいろな見解が飛び交うのも当然です。

 

そのことを踏まえての私の所感です。応用試験についての結論から書くと、外国人学習者とのやりとりの中で起こるようなことを、それを裏付ける理論に結び付けた出題が多かったように思われます。外国人学習者相手に教壇に立ったことの無い養成講座受講生などは難しく感じたところではないでしょうか。

応用試験の聴解問題については、口腔断面図やアクセントについての出題も見られました。しかし、より多く出題されていたのは、教師と学習者のやりとりや、聴解問題の構成について、課題・改善点を問うものでした。このあたりは、母語に影響を受けた学習者の日本語を授業の中で聞き慣れている方や、JLPT(日本語能力試験)やEJU(日本留学試験)の聴解問題などの対策授業を担当していた方は、解きやすかったのではないでしょうか。

過去問の公開は無し、対策はどうする?

第1回の試験を見送った方の中には、試験後過去問が公開されることを期待していた方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、日本語教員試験については、問題は全て回収され持ち帰ることは出来ませんでした。他の国家試験でも、問題を回収するという試験は多くあります。SNSが普及した現代においては、問題非公開という措置については、仕方の無い部分かと思います。

応用試験の対策について

聴解試験について

やはりと言いますか、日本語教育能力検定試験の時代から、難所は聴解対策でした。日本語教員試験の応用問題についても、聴解の問題をいかにクリアするかが大きなポイントになりそうです。

 

今回の試験では、【問題が1回しか流れないこと】、【次の問題までの間が短いこと】、この2つの特徴に慣れておくことがポイントだったと思います。これを知っているか否かでも、心持ちが違ってきます。試験では、普段の実力(勉強の成果)を発揮するということも大事ですが、試験のフォーマット(出題方法、出題傾向、回答方法)を事前に知っておくことで、心理的な負担を減らし時間を有効に使うことができます。

 

読解試験について

試験後に改めて、日本語教育能力検定試験の過去5年分の過去問を見返してみました。すると、似通った問題や共通の用語が見られたものが、ざっと数えて10問以上は見つかりました。やはり、出題範囲が同じ試験においては、理解の難しいポイントなど同じような問題設定を行わざるを得ないことは発生してきます。今回の試験対策に、日本語教育能力検定試験の過去問を使って対策をされてきた方などは、共通点を見出された方も多いのではないでしょうか。

 

ちなみに、読解の第1問はクラッシェンの学習ストラテジーについてです。こちらも、日本語教育能力検定試験の対策では良く出る範囲でしたので、過去問を繰り返し解いて臨まれたという方は、ぐっと落ち着いた気持ちで試験に向き合うことができたのではないかと思われます。

応用試験全体を通して

今後は、日本語教員試験に対応した学習教材も充実してくることが予想されます。ですが、過去問や公式問題集といったものが販売される見込みが少ない中では、日本語教育能力検定試験の過去問を解くというのは、自身の苦手な箇所を把握するという点においては有効な対策と考えます。聴解については検定試験の試験Ⅱ、読解については試験Ⅲを解くことが、一番の近道だと思われます。

 

まだサンプル数が少ない状況で、確定的な話をするのは難しいですが、この出題状況はしばらく続くのではないかと思われます。問題文や選択肢の言い回しの傾向は異なるにしても、尋ねられていることは基本的に、日本語教員試験と日本語教育能力検定試験で同じと思われます。日本語教員試験では、間違いを誘発させるような文章、論理的な整合性を見て答えを導き出すような問題というものよりも、しっかりと理解をしていれば回答を導き出せる問題が多く見られました。ですので、試験前にどれだけ記憶力を鍛えるか、知識量を増やすか、ということにかかっているというのが私の見解です。

 

また、本番の試験では集中力と体力、ということになるでしょう。試験前には、しっかりと生活のリズムを整え、体調・心身共に万全な状態で試験に臨みたいものです。

 

日本語教員を目指すなら、養成機関ルートの検討も

2024年12月20日に、第1回日本語教員試験の合格発表が行われました。

受験者17,655人、合格者11,051人、合格率62.6%

と発表されていますが、上記の人数には現職者で日本語教育能力検定試験に合格している全試験免除者(5,958人)も含まれています。全試験免除者を除くと、受験者 11,697人、合格者5,093人、合格率43.5%となりました。

もう少し深堀をしてみると、

試験ルート(基礎試験・応用試験)での受験者は 3,681人、合格者は 322人、合格率 8.7%でした。

一方、基礎試験を免除され応用試験だけの受験者は 7,750人、合格者は 4,727人、合格率 61.0%でした。

試験ルートと、基礎試験免除者では合格率に大きな差がでました。

 

私が担当しているクラスの受講生のお言葉を拝借すると、「いやー、まず難しいですね」と笑いながら即答されておりました。勉強して記憶に残っていた部分は答えられたが、記憶にない範囲の問題については、直観に頼った回答になってしまったと。

ですが、改めて実感を込めて「養成講座に入って良かったですよね」、「来年は基礎試験は免除されるだけでも大きい。それに、養成で授業の仕方をしっかり学べるのだから」と話をされていました。

やはり1日で基礎試験、応用試験の2つの試験を受験するのは、大きな負担になります。特に基礎試験は出題範囲も広く、合格条件『必須の教育内容で定められた5区分において、各区分で6割の得点があり、かつ総合得点で8割の得点があること。』が厳しいです。本番試験で8割を獲得するということは、普段の学習中ではほぼ分からないことが無いくらいまで、理解を深めておく必要があると感じます。

養成講座に通学されれば、基礎試験は免除となりますし、日本語教育の専門家である先生方より授業進行のノウハウ、学習者との実際の授業ではどのような事が起こっているのか?という実践に即した知識を得られることも大きな魅力でしょう。

仮に、日本語教員試験の基礎試験、応用試験に独学で合格したとしても、その後の実践研修が、どこまで420時間コースの実技授業に近いデザインになるのか、それも明らかではありません。加えて、教案の書き方、ドリル練習やその組み合わせ方、多種多様な教授法のレクチャーを受けて、すぐに実践できるか。現場に出て即戦力になるかというと、本人の努力次第と言っても、その努力の量が膨大になる気がします。

結論としては、国家試験合格後すぐに日本語教員として教壇に立つ予定があるということでしたら、養成講座で受講をされ、その講座で製作された教科書でしっかり理論を学習してテストも受け、実技の科目で教案を書いたり、教材・教具を手作りで作成し、模擬授業で実際の先生役や外国人役になりきって、双方の心理を体感することが、何よりの近道と言えるのではないかと、私は考えます。

 

まとめ

今回の結果を見て、以下のように考えています。

【試験ルートがおススメの方】

・近くに養成講座が無い方

・独学でもモチベーションを保って試験勉強が出来る方

 

【養成機関ルートがおススメの方】

・上記以外で、国家試験取得後すぐにでも日本語教員として働きたいと考えている方

 

また、応用試験のみの受験者の合格率も60%台です。4割の方は不合格になっています。養成機関に通学・修了するだけではなく、しっかりと応用試験対策が出来る学校を選ぶことが重要であると考えています。

参考資料

・文部科学省 令和6年度日本語教員試験実施要項(https://www.mext.go.jp/content/20240524-mxt_nihongo02-000036014_1.pdf)

・文部科学省 令和6年度日本語教員試験実施結果をお知らせします(https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2024/mext_01464.html)

 

この記事の筆者
養成講座実技担当
關本仁市
日本で大学卒業後、イギリスに2年留学。大学院で談話分析学を専攻。帰国後、教育業界にて予備校講師、英会話教師など経験後、日本語教育へ。大手日本語学校で初級~上級の指導に携わったのち、TCJに参画。留学生コース担当ののち、日本語教員養成講座を担当。
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