学習者の誤用に対してどのようにフィードバックをすればいい?
概要
誤用の種類や訂正方法を分かりやすく整理し、授業での実践ポイントを紹介します。学習者の意欲を守りながら、成長を支える指導のポイントが分かります。
学習者の誤用にどう対応する?
授業の前に、あなたは学習者に「週末はどうでしたか」と質問し、自由に話してもらいます。そのときに「電車を乗って渋谷に行って、友達に会いました」と聞いたら、あなたはどうしますか?
1)すぐさま「“電車に乗る”ですよ」と訂正する
2)「電車を?」とだけ言って、学習者の様子を見る
3)問題になるほどではない間違いとして、スルーする
この場合、私は3を選ぶことが多いです。【週末の過ごし方を共有する】というコミュニケーション目的において、この助詞の誤りは、意味理解にほとんど影響しないからです。
もし学習者が「渋谷で友達を食べました」と言ったら、もちろん訂正します(笑)。
しかし、「電車を乗る」は意味が誤解なく伝わるため、あえて流すことも多いのです。けれども、形式的な正確さを重視する教師にとっては、この判断に違和感を覚えるかもしれません。このように、「学習者の誤用にどう対応するか」は、教師としてのビリーフ(belief=教育観)にも関わる深いテーマです。
今回の記事では、まず誤用の種類とフィードバックの方法を整理し、実際の授業でどのような点に配慮すれば、学習者の成長を支える効果的なフィードバックができるのかを考えていきましょう。
フィードバックの分類は「教師の介入のしかた」で2タイプに大別できる
フィードバックは、「教師の介入のしかた」によって大きく2つに分けられます。
まず、教師が学習者の発話を聞いてすぐに正しい形を示す「リキャスト(Recast)」。
はっきりと「違います」とは言わず、自然に正しい形へと言い換える方法です。
たとえば、
学習者:電車を乗って渋谷に行きました。
教師 : あ、電車に乗って行ったんですね。
このように会話の流れを止めないのが特徴ですが、学習者が訂正に気づかないことも多いと指摘されています(Lyster & Ranta, 1997)。
次に、教師が誤りを指摘・暗示し、学習者自身に修正させる「プロンプト(Prompt)」。
これは、講師が「〜は間違っていますよ」と明示的に教える場合もあれば、まちがった部分を繰り返して促す(例 「電車を乗る?」)、あるいは、「【を】は目的語を表しますね。でも【電車】は【乗る】の目的語ではありません」と文法的に補足する場合など、さまざまな形があります。プロンプトは、学習者が自分で考えて訂正するため深い理解につながりやすい反面、頻繁に行いすぎると心理的負担になることもあります。確かに、助詞を間違えるたびに指摘されて考えさせられたら、話す意欲が少し萎えてしまうかもしれませんね。
さらに、これらの分類とは別に、プロンプトによって学習者が自ら誤りに気づき、言い直すことがあります。このような学習者の自己修正(repair)は、フィードバックそのものではありませんが、学習者にとって理想的な反応の一つとされています。教師の支援を経て「自分で気づける」ようになることが最終的な目標です。
エラーとミステイク
学習者の誤用には、大きく「エラー(Error)」と「ミステイク(Mistake)」と言われるものがあります。エラーとは、まだ知識が十分でないために生じる誤りで、学習者本人には「何が間違いなのか」が分かっていません(Corder, 1967)。そのため、正しいモデルを提示したり、文脈に沿って使い方を明確に示したりするサポートが必要です。一方、ミステイクは、学習者が知識を持っているにもかかわらず、不注意で瞬間的に言い間違えてしまったものです。軽い促しで自力修正できることが多く(Lyster & Ranta, 1997)、「音楽を聞きて・・」と言われたときに「聞きて?」とだけ返すと、「あ、聞いて」と自ら言い直してくれることも多いです。
ただし、エラーなのかミステイクなのかを見極めることは、必ずしも可能ではありません。
たとえば本記事にも出てくる「電車を乗る」。これは知識不足によるエラーなのか、それとも一瞬の混乱によるミステイクなのか判断できません。だからこそ、すべての間違いを「エラー」と捉えない視点は大切かもしれません。エラーは放置すると化石化しやすいですが、それがミステイクかもしれない以上、すべてをエラーとして扱うと学習者の負担が増え、発話意欲が下がる可能性があります。大切なのは、誤用そのものではなく、 【誤用訂正により学習者に与える負荷】と【訂正することで学習者の日本語が改善する可能性】、この2点のバランスが取れるような訂正頻度を意識することでしょう。
実際の授業でフィードバックする際は何に気をつけるべき?
授業形態によって、フィードバックの仕方や伝え方には微妙な違いがあります。
グループレッスンでは、学習者の前で個人の誤用を指摘することに、特に注意が必要です。
他の学習者の前で訂正されると、恥ずかしさや劣等感を感じてしまうことがあるのは、容易に想像できますよね。しかし、グループレッスンでは逆に、個人を守るためにあえて「全体へのフィードバック」という形で伝えるという戦略も使えます。特定の人に直接言うのではなく、「この表現、みんなよく間違えていますよ〜」と全体に向けて話すことで、本人にも気づいてもらう方法です。
一方、プライベートレッスンではこの「間接的な伝え方」が使えないため、講師がどのタイミングで・どんなトーンで指摘するかが、より重大な問題になります。どうフィードバックするかは、もちろん学習者一人ひとりの性格に合わせていくことが理想でしょう。
とはいえ、どちらの授業形態であっても大切だと確信できるのは、講師側の共感性・想像力・配慮です。「もし自分がこの場でこのように指摘されたら、どんな気持ちがするだろう?」と一度、ご自身でシミュレーションしてみることが何より大切だと思います。
もちろん感じ方には個人差があり、絶対的な正解はありません。 けれども、「一度相手を思いやったかどうか」という【人間愛的な部分】は、言葉や空気感を通して自然に伝わるものです。誤用へのフィードバックは、単なる訂正ではなく、学習者との信頼を築く対話でもあるのです。
まとめ
誤用のフィードバックには、決まった正解がありません。エラーとミステイクを見分けることは難しく、学習者の背景や性格、授業の目的によって最適な対応は異なります。大切なのは、【この訂正は学習者にとってどのくらい負担になるか】【その訂正は本当に学習を助けるか】という2つの視点を常に持ち続けることです。誤用は、挑戦したからこそ生まれる学びの証でもあります。学習者の努力を尊重しながら、安心して間違えられる場をつくることこそが、教師の役割と言えるでしょう。
参考文献
Corder, S. P.(1967)「The significance of learner’s errors」『International Review of Applied Linguistics』Vol.5, pp.161–170.
Lyster, R. & Ranta, L.(1997)「Corrective feedback and learner uptake: Negotiation of form in communicative classrooms」『Studies in Second Language Acquisition』Vol.19, pp.37–66.
Lyster, R.(2004)「Differential effects of prompts and recasts in form-focused instruction」『Studies in Second Language Acquisition』Vol.26, pp.399–432.
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