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日本語教師の国家資格化について

目次

「日本語教師」から「登録日本語教員」へ

日本語を勉強するために日本にやってくる外国人留学生に対し、日本語を教える事業はこれまで、法務省告示校という国が認めた日本語教育機関や各大学の留学生センターなどが担ってきました。そして、法務省告示校で日本語教師として働くためには、以下の3つの条件のいずれかを満たす必要がありました。

1)大学で主専攻、または副専攻で日本語教育に関する勉強をし、卒業していること。
2)日本語教育能力検定試験に合格していること。
3)日本語教師養成講座420時間講座を修了し、かつ大学を卒業していること。

これまで日本語教師は民間資格だったのですが、2024年4月1日から「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律施行規則」によって正式に登録日本語教員という国家資格となることが定められ、登録日本語教員になるための試験の方法とその免除要件や、申請から登録までの流れなどが細かく規定されることとなりました。

同法では登録日本語教員のみならず、認定日本語教育機関登録日本語教員養成機関登録実践研修機関などについても様々な規定が定められ、正式に日本語教育全体に、国がより深く関与していくことが決定したというわけです。

(参考)「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律施行規則(令和6年法律第39号)」

 

 

どうして国が外国人留学生向けの日本語教育に関与しようとしているの?

日本学生支援機構(JASSO)の調査によれば、2023年5月1日段階で、外国人留学生数は279,274人で、なんと前年比48,128人(20.8%)増だそうです。ものすごい数ですよね。

(参考)独立行政法人日本学生支援機構 2023年度外国人留学生在籍状況調査結果

全国各地で日本語を学ぶ彼らの中には、日本に留まり、日本社会で重要な役割を担っていく人もいれば、帰国してその国の有力者となっていくような人もいます。そういった貴重な人材に対する日本語教育のあるべき姿として

適切な日本語教育機関で
適切な日本語教員養成機関で学んだ
適切な能力をもった日本語教員が
適切に日本語の指導を行う

ということが求められます。

しかし、この「適切」という水準が抽象的で曖昧な点が課題であることに加え、量的な不足を解消しなければならないという問題もあります。

文化庁国語課の令和4年度の報告では日本語教師の数は44,030人となっていますが、このうちボランティアで指導に携わっている方が21,568人(49.0%)となっており、非常勤講師として働いている方が15,891人(36.1%),常勤として働いている方が6,571人(14.9%)となっています。

(参考)文化庁(2024)「令和4年度 日本語教育実態調査報告書 国内の日本語教育の概要」

非常勤の方は1週間あたりどのくらいのコマを指導するのかは、人によって違うので一概には言えないのですが、少し多めに見積もって、非常勤講師3人で専任講師1人分のコマを担当すると考えれば、1万2千人弱くらいのマンパワーで28万人にものぼる外国人留学生を指導していることになります。

外国人留学生は1週間で20単位時間、日本語学校で勉強します。1クラスを法務省告示校基準の上限20人と仮定すれば、28万人(外国人留学生数)×20(単位時間)÷20(1クラスあたり上限)÷12,000人(マンパワー)が1週間に1人分のマンパワーで消化しなければならないコマ数で、その数はなんと1人あたり24単位時間ということになります。

これはギリギリ運営できる水準ではあるものの、全く余裕のない状態であると言えます。非常勤講師のマンパワーを多く見積もってこれですから、実際には現場はもっと大変です。余裕のない運営状態は必然的に質の低下を招きますので、量の問題が質に影響を与えてしまっている可能性も否めないという、苦しい現状を数字から窺い知ることもできます。

この苦しい現状を打開するための国家施策の骨子は簡潔に以下のようにまとめることができると思います。

【目的】日本語教育の質を制度設計によって確かなものにし、外国人人材育成の精度を高める。

【日本語教育の質を保つ方法】
1) 日本語学校がきちんと運営されているかどうか認定する
2) 教師として、しかるべき技能・知識を有しているかを認定する
3) 教師を育てる養成機関がきちんと運営されているかどうかを認定する

それぞれどのような方法で実施しようとしているのかを見ていきましょう。

 

どうやって、日本語学校がきちんと運営されているかどうか認定するの?

文化庁発表の「認定日本語教育機関の認定にあたり確認すべき事項」では以下の点について審査をすると明示されています。独特の言い回しなどがあり、項目が相当の多岐にわたるため、若干表現を一般的な言い方に置き換え、抜粋してご紹介したいと思います。
(参考)文化庁(2024)「認定日本語教育機関の認定にあたり確認すべき事項」

・ 設置者は運用資金をショートしていないか
・ 仲介業者に対してお金を払いすぎていないか
・ 多角経営で、日本語教育機関に負担をかけていないか
・ 開校理念はあるか
・ 経営方針、組織体制、施設は適切か
・ 日本語教育に関する法令などを理解しているか
・ 経営者は社会的信用がある人間か
・ 校長先生は日本語教育機関の運営に関する見識があるか
・ 主任教員はいるか、校長と兼務の場合は授業をやりすぎていないか
・ 教員1人あたりの担当コマは適切な量か(例・主任教員は週20単位時間上限)
・ 組織的かつ計画的な研修を実施しているか
・ 教育課程の目的、目標、時間的枠組み、授業内容と方法などが適切に定められ、授業科目は日本語教育枠を参考にし、適切かつ体系的に設置されているか
(参考)文化庁「日本語教育の参照枠の概要」

これらの他にも地下の教室は換気ができているかなど、かなり細かい点まで認定基準として定められています。理念や教育に対する姿勢などの考え方だけでなく、設備や人員の配置など組織運営としての適切さにまで確認をすることで、日本語教育全体の質を保つという方針を窺い知ることができますね。

 

どうやって、日本語教師としての技能・知識が備わっているかを認定するの?

【技能面はどうやって認定されるの?】
日本語教師としての技能、すなわち授業を適切に運営できる能力を備えた教師を育成するため登録日本語教育実践研修という制度が実施されることとなりました。

登録日本語教員実践研修とは最短45単位時間の中で、教案作成、授業見学、模擬授業(日本人相手の模擬授業)、教壇実習(外国人学習者相手の模擬授業)、ふりかえりまでを実施する研修です。

この研修によって、授業計画の立て方、導入、練習、活動を効果的かつテンポよく進めるコツ、学習者が間違えたときのフィードバックの方法などの実践的スキルを習得するということですね。

この登録日本語教員実践研修を実施する機関を登録実践研修機関といいます。この機関で、実践研修の指導者としての資格要件を満たした講師が評価し、現場に出る水準に達したとみなされたとき「日本語教師としての技能が備わった」と認定されることとなります。

登録実践研修機関も認定日本語教育機関と同様、運営状態、指導者の経歴、施設要件等々の観点から適切かどうかをチェックされ、問題なしと判定された機関となりますので、安心して勉強することができるということですね。

【知識があるかどうか、どうやって認定されるの?】
一方、知識面が一定水準に達しているか否かは日本語教員試験によって測られることになります。日本語教員試験は基礎試験、応用試験があり、基礎試験では5区分と呼ばれる範囲でそれぞれ6割、総合得点では8割が必要となります。科目ごとに足切りが設けられているというとわかりやすいかもしれません。一方、応用試験では総合得点で6割が必要となり、こちらは特に足切りなどは定められていません。

詳細についてはYoutubeの動画でもご説明していますので、下記動画も参考にしていただければ嬉しいです。この試験に見事合格した方は、日本語教師として必要な知識を修めていると認められるというわけですね。

(参考)試験概要発表!何が変わった?勉強のポイントと教材を紹介!
(参考)「令和6年度 日本語教員試験 試験案内」

授業の取り回しが上手であることはとても大切なことです。ですが授業が上手だからといって理論的知識がなくていいということではありません。逆もまたしかりですね。この点が制度としてしっかりと整ったことで、今後技能・知識をバランスよく収めた先生方がどんどん増えていくということが期待されると思います。

 

教師を育てる養成機関がきちんと運営されているかどうかはどうやって認定しているの?

そして、日本語教師を育てる養成講座もまた、認定日本語教育機関同様に、運営状況、講師は法で定めた要件を満たしているか、カリキュラムは適切かなどが審査され、しかるべき水準を満たしているとみなされれば、登録日本語教員養成機関として認定され、この養成講座を修了した場合、上述した日本語教員試験における基礎試験が免除されることとなります。

講座によっては登録実践研修制度が一体となって提供される養成講座もありますので、このような講座を修了した場合は登録実践研修も免除されることとなります。この辺が少し複雑でわかりにくいと感じられる方もいるかもしれません。この制度に関する動画などもYoutubeで公開しています。ご参考になれば嬉しいです。

(参考)【国家資格化スタート】日本語教師養成講座とは何をする? 国家資格化で何が変わるの?【登録日本語教員】

各登録日本語教員養成機関は、コアカリキュラムと呼ばれる、養成講座で指導されなければならない必須50項目に沿ったシラバスを作成することが義務づけられていますので、どの登録日本語教員養成機関で学んでも、同じ内容を一定程度の水準で学ぶことができます。

(参考)文科省(2024)「登録日本語教育実践研修・養成課程コアカリキュラム

各登録日本語教員養成機関は、コアカリキュラムを基礎においた、それぞれの学校の特色を活かした様々なカリキュラムを提供しています。ご自身の嗜好・意向に沿った学校を選ぶことができますね。

 

まとめ

日本語教員資格の国家資格化の話が出だしたときは、その実現を疑問視する声も散見されましたが、認定日本語教育機関、日本語教員試験、そして登録実践研修機関・登録日本語養成機関の3つの柱を軸に、登録日本語教員制度は走り出しました。みんなで盛り上げ、確かなものにしていきたいですね!

一応ですが、このお話は日本語教員試験にも出る内容となっていますので、読み込んでいただければちょっとだけ試験の点数があがるかもしれません(笑)ご参考になれば幸いです。

また、Youtubeでも関連した内容の解説を行っていますので、こちらも併せて視聴してみてください。

この記事の筆者
日本語教師
岩崎 徹
国内MBA修了後、国際協力活動に従事し、異文化理解への関心を深め、筑波大学大学院の日本語教育学学位プログラムに進学。大学院修了後は、国際交流基金でインドネシアの日本語教育を推進し、『日本語配慮表現の原理と側面』(黒潮社)に寄稿。TCJに入社後は留学生向けに異文化理解力を高めるためのソーシャル授業開発メンバーとしても活躍。

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