

【保存版】格助詞・へ格、マデ格、ヨリ格のポイント
この記事では、前回の『格助詞・ガ格、ヲ格のポイント』『格助詞・二格、ト格のポイント』に引き続き、格助詞「へ格」「マデ格」「ヨリ格」の教え方について、わかりやすく説明します。
復習・格助詞とは何か?
格助詞とは「が」「に」「より」など、主に名詞の後ろにくっついて、その名詞がどのような働きをするのかを示す語のことを言います。語順の自由度が高い日本語にとって、言いたいことを正しく伝えるために、格助詞はなくてはならない存在であり、格助詞が適切に使えれば、ミスコミュニケーションも防げます。これまでに、10種類の格助詞の覚え方や「ガ格」「ヲ格」、また13もの用法をご紹介した「ニ格」や日常的にもよく使う「ト格」について触れてきましたが、シリーズ第3弾となる今回の記事では、「へ格」「マデ格」「ヨリ格」について詳しく見ていきます。
格助詞「へ」の教え方
【へ格】格助詞「へ」の主な用法は、「着点」です。
⚫︎着点/Destination (toward)
「行く」「送る」などの人や物の移動を表す動詞を取るとき、移動先を表す名詞について、移動の方向を表します。
(例)・駅へ向かいます。
・スーパーへ行きます。
⚪︎教え方のコツ
「ヘ格」に関する学習者からの定番の質問は「に」と「へ」の違い。「学校に行きます」のように、着点の用法の「に」の場合、基本的に「へ」と置き換え可能です。私は、初級クラスで、「に」と「へ」の違いは?と質問があった場合は、どちらでもOK!と言い切っています。ですが、もちろん違いはありますので、日本語教師としてはしっかりおさえておきましょう。
(1)名詞に接続する「の」と一緒に使うときは、「へ」のみ使用可能。
正)上司へのメール
誤)上司にのメール
(2)「に」は移動の到着点を表すのに対し、「へ」は移動の方向を表し、到着のニュアンスは弱い。英語では「に」は”to”、「へ」は”toward”に近い。
比較してみましょう。
?空港へ到着して、レンタカーを借りた。→「に」が自然。
◎電話をしながら、会社へ向かった。
1つ目の文は着点にフォーカスしているため、「に」の方が自然に聞こえます。それに対して、2つ目の文は、移動の方向にフォーカスしており、「に」でも可能ですが、「へ」を使う傾向がやや強いと言えるでしょう。
格助詞「まで」の教え方
【マデ格】格助詞「まで」の主な用法も「着点」です。
⚫︎着点/Endpoint
場所を表す名詞について、空間的な範囲の終点を表します。
(例)・毎日、会社まで歩いています。
・最寄駅まで、バスに乗ります。
時を表す名詞について、時間的な範囲の終点を表します。
(例)・9時から6時まで、働いています。
・学生時代は、ときどき朝まで勉強しました。
度合いを表す名詞などについて、到達点を表します。
(例)・京都は40度まで、気温が上がりました。
・平均点まで、あと3点でした。
⚪︎教え方のコツ
「マデ格」に関しては、同じく着点の用法を持つ「に」や「へ」との違い、また、とりたて助詞の「まで」との違いに注意する必要があります。
(1)着点「に」「へ」と「まで」の違い
■「まで」だけ使用できるケース
・範囲を示す場合。移動を伴わない動詞と一緒に使える。
正)5行目まで、読んでください。
誤)5行目に/へ、読んでください。
・「歩く」「走る」「泳ぐ」など、移動を伴う動作を表す動詞を使う場合。
正)会社まで歩きます。
誤)会社に/へ歩きます。
■「まで」が使用できないケース
・範囲を指定できない「左」「右」のような名詞とは、一緒に使えない。
正)右に/へ曲がってください。
誤)右まで曲がってください。
・「疑問詞+か」には使えない。
正)ねこは、どこかに/へ行ってしまいました。
誤)ねこは、どこかまで行ってしまいました。
(2)とりたて助詞「まで」との違い
「まで」は格助詞だけでなく、とりたて助詞としても使われます。とりたて助詞とは、文のある要素を際立たせ、特別な意味を加える助詞のことを言います。
(例)彼の結婚式には、彼の母親のパート仲間まで来ていた。【とりたて助詞】
上の文の場合、「結婚式に来る人」の中で、もっとも遠いところにいそうな「母親のパート仲間」をとりたてることで、その事態が意外なものであることを表現しています。とりたて助詞「まで」を使うことで、新たな意味が加わっていますね。
これに対して、格助詞は通常、「会社」「5時」など、空間や時間上の一点を表す名詞につき、とりたて助詞のように、特別な意味を新たに付け加えることはありません。
格助詞「より」の教え方
【ヨリ格】格助詞「より」の主な用法は「起点」です。
⚫︎起点/Starting Point
移動や方向の起点を表します。
(例)・本社より、責任者がまいります。
・こちらより、ご成功をお祈りしております。
時間的な始点を表します。
(例)・10時より会議を行います。
・本日より今月末まで、セールを行っております。
「起点」の用法から派生して、比較や選択の基準点も表せます。
(例)・昨日より元気です。
・魚より肉が好きです。
⚪︎教え方のコツ
「より」を教えた際に、必ずと言っていいほど学習者が持つ疑問が「から」との違い。しっかりポイントをおさえておきましょう。
(1)起点の「より」と「から」は、ほぼ同じ意味を持ち、置き換えが可能なケースが多いが使う
場面や印象は少し異なる。
から:一般的。話し言葉でもよく使われる。
より:フォーマルで、書き言葉や公的な場面でよく使われる。
手紙の最後に書く「⚪︎⚪︎より」は、「⚪︎⚪︎から」には置き換えられない。
(2)比較の意味で使われる「より」は、「から」に置き換えられない。
まとめ
用法がシンプルで、簡単そうに見える「へ格」「マデ格」「ヨリ格」ですが、学習者が疑問に感じるポイントは意外と多いもの。今回ご紹介した教え方のコツは、日本語教員試験などでも狙われやすいポイントですので、しっかりおさえておくようにしましょう。この記事がみなさんの指導のお役に立てば幸いです。
参考
大阪YWCA, 氏原 庸子, 清島 千春, 井関 幸, 影島 充紀, 佐伯 玲子 (2023)『くらべてわかるてにをは日本語助詞辞典』Jリサーチ出版
日本語記述文法研究会編 (2009)『現代日本語文法2 第3部格と構文 第4部ヴォイス』くろしお出版
日本語記述文法研究会編 (2009)『現代日本語文法5 第9部とりたて 第10部主題』くろしお出版

日本語教育の基本! 「イ形容詞」と「ナ形容詞」はどう違う?
「富士山がキレクテ感動しました。」 日本語教師ならば、この発話のおかしな理由をすぐに説明してくれることでしょう。この記事では、日本語教育の基本中の基本ともいえる「イ形容詞」と「ナ形容詞」の違いについて説明します。

【日本語教員試験対策】「日本語教育の参照枠」の「全体的な尺度」とは?日本語能力の6レベルを分かりやすくご紹介!
日本語のレベルを判断する際の基準として役立つ「日本語教育の参照枠」の中から、最もおおまかな尺度である「全体的な尺度」について解説します。「初級」「中級」などと言っても、レベルの定義は実はあいまい。そんなときに活用できるのが、今回解説する「全体的な尺度」です。「日本語教員試験」にも出てくる重要キーワードで、教師デビューした後も活用できるものですので、理解を深めてみてください。