音便とは?日本語教育では促音便、イ音便、ウ音便、撥音便をどう使い分ける?

概要

日本語には音便という変音現象があります。これは、いつ頃起こったのでしょうか。また、日本語学習者にとって、この現象はどう捉えられているのでしょうか。ここでは音便について、その歴史と現場での扱い方・留意点などをご紹介していきます。

日本語の音便について

音便という現象が出現したのは遥か昔、平安時代と言われています。元々、日本古来の言葉である大和言葉には促音、撥音はありませんでした。これらは、5世紀ごろ中国から漢字が伝来し、漢字音の影響で日本語に登場しました。音便の出現も、この漢字の普及が影響しているとも言えます。
では、なぜこのような現象が起きたのでしょうか。言葉の、特に音の変遷は発音のしやすさから起こります。言葉とは、音同士を滑らかに繋ぎ合わせて発音しやすい状態に変化していくものなのです。
音便には促音便イ音便ウ音便撥音便があります。今回は、日本語教育現場と絡め、これら4つの音便をご紹介していきたいと思います。

促音便とは

「イ」「チ」「リ」が「っ」になる現象。
例)使て→使
  立て→立
  座て→座

イ音便とは

「キ」「ギ」が「い」になる現象。
例)書て→書
  泳て→泳

ウ音便とは

「ク」「イ」が「う」になる現象。
例)早 →早
  言て→言
※関西方面の方言に現存

撥音便とは

「ニ」「ビ」「ミ」が「ん」になる現象。
例)死て→死
  遊て→遊
  読て→読

動詞グループと音便

日本語教師の基礎知識として音便の歴史や意味について知っておくことは大切です。しかし、それよりも大切なことは、動詞と深いかかわりがあるということを理解しておくことです。
前述の通り、ウ音便は方言の中に現存していますが、その他の音便はⅠグループ動詞のて形(た形も同形)の分類と関わりがあることにお気づきでしょうか。

 

マス形 動詞例 て形 た形 音便
使います って った 促音便
立ちます
座ります
死にます んで んだ 撥音便
遊びます
読みます
書きます いて いた イ音便
泳ぎます いで いだ
話します して した

上記のように、Ⅰグループ動詞の促音便は「いちり」グループ、撥音便は「にびみ」グループ、イ音便は「きぎ」グループのそれぞれて形・た形に出現しています

ここでのポイントですが、日本語学習者に音便について教える必要はまったくありません。あくまでも、日本語教師としての皆さんの基礎知識として知っておいてほしいのです。音便について知っていれば、なぜ日本人が学ぶ国文法日本語教育で扱う日本語文法の整理の仕方が違うのかが理解できると思います。

日本語学習者が間違えやすいポイント

日本語学習者が間違えやすいポイントは二つあります。

1)Ⅰグループ動詞の「る」グループとⅡグループ動詞
初級の学習段階では、いくつか学習者が越えなければならない大きな山があります。て形もその一つで、学習者泣かせの大きな山場と言えます。まず、て形を学ぶ際にⅠ~Ⅲの動詞のグル―プ分けが出てきます。その中でもⅠ・Ⅱグループ両方にある「る」動詞の分類は大混乱です!

  例)Ⅰグループ「る」→帰る
      Ⅱグループ動詞 →述べる

「る」の動詞なら全て「って」だと覚えている学習者は案外多いです。「帰る→帰って」を間違える学習者はほとんどいませんが、「述べて→述べって」になる学習者は大発生します!じゃあ、どうやって区別するの?と、よく聞かれるのですが、一応規則性を教えることもできるのですが、一番の近道は丸暗記だと思います。学習者にとって、新出動詞が出てくるたびに「これはⅠ、これはⅡ」と覚えていったほうが結果的に楽だと思います。それに、話すときの瞬発力が違います。話す際に、「これは、このグループの動詞だから、えっと、て形は…」なんて考えている間に、会話はどんどん進んでいってしまいます。

2)五段活用の影響
日本人の皆さんなら、国文法の時間に動詞の分類を勉強したと思います。日本語教師養成講座で勉強を始めたころは、国文法が頭の片隅にあって、日本語文法におけるⅠ~Ⅲグループの分け方に慣れずに混乱したかもしれません。また、そもそも文法が苦手で拒絶反応(?)を起こした人のいたかもしれませんね。そういう方はちょっと頭が痛くなるかもしれませんが、ここで国文法と日本語文法の動詞の分類を比較してみましょう。

 

日本語文法 国文法
Ⅰグループ 五段活用
Ⅱグループ 上一段活用・下一段活用
Ⅲグループ カ行変格活用・サ行変格活用

ここで国文法との比較をお見せしたのには理由があります。日本に来る学習者は、母国で初級段階の学習を済ませてくる人も少なくありません。その際、国文法をベースに学習してくる学習者がたまにいます。そういう学生は音便化せず、「書いて→書きて」と言うときがあります。日本に来て、初めて音便化するて形・た形に出会うわけではないと思いますが、五段活用の規則性を応用する学生がいます。日本語の構造や体系を母語で学習し、理解しているのかもしれません。理由ははっきりとはわかりませんが、このような誤用をする学習者がいることも覚えておいていただきたいと思います。
ごくまれにですが、Ⅰグループ動詞を五段活用動詞、ナ形容詞を形容動詞などと国文法用語を使って質問をしてくる学生がいます。その際、教師がこれらの用語が日本語文法のどれと対応しているかがわからないと質問に答えることができません。音便の知識に加え、国文法と日本語文法を比較しておくことも、学習者の誤用対策には必要なことだと言えます。

まとめ

ここでは音便化現象の歴史と、私たちがいる日本語教育現場との関わりについてお話ししました。変音現象は、発音のしやすさから変遷を遂げてきました。今回扱った音便以外にも連濁・連声・ハ行転呼など様々な変音現象があります。出現した時期は遥か昔ですが、現代の日本語教育と深い関わりがあることをご理解いただけたかと思います。参考資料に、サクッと読めるオススメ図書を載せておきます。内容には日本語史も含まれています。現代の日本語教育にも深く関わっているものなので、日本語の歴史にも興味を持って読んでいただければ嬉しいです。

参考資料

中島文雄『日本語の構造ー英語との対比ー』(岩波新書)
金田一春彦「日本語(上・下)』(岩波新書)

この記事の筆者
日本語教師養成講座 非常勤講師
吉田潤子
日本語学校の非常勤教師を経て、現在は大学で交換留学生・学部生向けの日本語授業(初級~上級授業、ビジネス日本語、BJT対策等)を担当。
日本語教師養成講座では理論・実技を担当。「誰でもわかる授業」「楽しく参加できる授業」を目指しています!

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